紺色のタキシードに、黒色のネクタイ。手は真っ白な手袋で覆われていて、大人の男性感を底上げしている。
寛司は身長が高い。前にいくらあるのかと聞くと百七十八と言っていたし、うちのクラスでも身長順に並べればかなり後ろの方になるだろう。
そんなスラッとした体型の彼がタキシードを身に纏うと、よりスタイルの良さが際立つ。
長い手足、漂う気品。そして……優しく柔らかい微笑み。
「可愛い……有美、めちゃくちゃ似合ってる」
「あ、ひゃわ……ぴゃっ……」
ああ、ダメだこれ。────かっこいい。
頭が上手く回らない。寛司と目を合わせた瞬間、目が情報量の多さとかっこよさに焼かれてクラクラしてくる。
こんなの聞いてない。私がメイド服を着るだけ。そう、思っていたのに。
まさか同じように寛司までコスプレをしていたなんて。もしかして先輩が私を先に一人で更衣室へと入れたのは、コッソリとその提案をするためか。
してやられた。私の驚く顔を見て、先輩はニヤりと笑っている。
「有美と写真撮るならせっかくだし、って。俺も執事さんの衣装借りたんだけどどうかな。なんかこういう堅苦しい格好、落ち着かないけど」
「ぴ、ぴぇ……」
白い手袋のゴムを少し伸ばし、パチンッ、と音を立てて戻す。
似合っているかも何も。もはや似合いすぎて怖いくらいだった。
素材がいいからか。ああもう……やっぱりズルい、こんなの。
「似合って……る。けどそれ以上、近づかないで……」
「え、なんで?」
「ぴゃあぁっ!?」
グイッ。寛司が距離を詰めてくる。
それだけで。たったそれだけで私の心臓は飛び出そうな勢いで高鳴って、うるさいくらいのバクバクとした音で私の身体を熱くしていく。
近づかないで欲しい理由なんて、決まってる。
寛司が────好きな人がかっこよすぎて、私の方がおかしくなってしまいそうだから。
「ははっ、有美顔真っ赤。もしかして、結構ドキドキしてくれてたりするのかな」
「う、ううううるしゃぃ……顔、見るなぁ……」
「え〜、やだ。もっとその真っ赤な顔見せてよ」
「う゛ぅっ。あ、ぅ。やめ、ろぉ……っ」
顔が熱くて仕方ないのに。目を逸らそうとすると、そっと頬に手を当てて自分の目に視線を向けさせようとしてくる。
分かってるくせに。今私がどんな状態か。なんで目を逸らすのか。全部わかっているくせに、寛司は意地悪だから逃がしてくれない。
じっくりと私のメイド姿を観察しつつ、捕まえて。ドギマギさせるのを楽しんでるんだ。
「俺、いつもドキドキさせられっぱなしだからさ。たまにはこっちから思いっきり意識させたいなって。反応を見るに、大成功かな」
はあ!? 何がいつもドキドキさせられっぱなしだ。
私の方が……振り回されてる。いつもふとした瞬間に見せるかっこよさや優しさに、何度も何度も。
だからさも仕返しみたいに言ってくるけれど、こんなの追い打ち以外の何物でもない。
「でも……どうしよう。有美のメイド姿、可愛すぎる。いつも可愛い物は私には似合わないなんて言うけど、もっと自分に自信持って欲しいな。有美はこんなにも可愛くて、可愛い物も似合う人なのに」
「ひゃ、ぅあ……! も、もぉ許して……これ以上、やめてよぉ……っ」
バクンッ。バクンバクンバクンバクンバクンッ。
胸が張り裂けそうだ。こんなの。こんな、かっこいい姿の彼氏からの褒め地獄なんて。嬉しさが……幸せが、溢れ続けて止まらない。
嫌でも好きを自覚させられてしまう。押し付けられて、刻印されてしまう。
(どう、しよう。かっこよすぎて目、見れないよぉ……っ!!)
もはや、私は自分のメイド姿がどうとか、そういうことを考える余裕は無くて。
ただひたすらに……自分の中で増幅を繰り返す好きが身体を侵食していく感覚に、震えることしかできなかった。