「うん……うんっ! やっぱりめちゃくちゃ似合ってるよ!! 最ッッ高に可愛い!!!」
「そ、そう……ですかね」
「私が保証するよ! くっふふ、彼氏君有美ちゃんが可愛すぎて卒倒しないといいけどねぇ」
鏡に映った自分の姿を見つめる。
フリフリまみれのメイド服に身を包み、頭にはカチューシャ。初めはお化粧もしてくれる予定だったらしいけれど、むしろしない方が清楚感が出て良い、と。
メイド姿の私……自分で自分に見せつけると、尚恥ずかしい。
寛司はこんな私が見たかったのか。こんな私でいいのか、と。少し不安にもなる。でも……不思議と、この私を寛司に見せたいという気持ちが湧き上がっていた。
着る前は着たら絶対恥ずかしくなって駄々をこねる結果になるだろうと思っていたのに。我ながら、どれだけアイツに可愛いと言われることに味を占めているんだか。
「じゃあ早速だけど、彼氏君に会いに行こっか?」
「あっ……はい。その、寛司にだけ見せてすぐ脱ぐみたいなのは……やっぱりできないですか?」
「う〜ん、そうしてあげたい気持ちはあるんだけどね。男女で厳格に更衣室を分けている以上、こっそりここに彼氏君を連れてくるのも難しいし。一応教室の扉は閉めておいてもらってるけど、中にいる何人かにはやっぱり見られちゃうかな」
「そ、そうですか。分かりました……」
本当は寛司以外にはチラリとも見られたくないというのが本音だ。けど、そうワガママばかり言っているわけにもいかない。
クラスの出し物としてここを運営している以上、先輩のクラスメイトの人は当然教室内にいるだろうし。それ以外にも私と寛司とは別でコスプレを楽しんでいるお客さんだっているだろう。
私一人の都合でそれを追い出す、というのはいくらなんでも横暴だ。むしろ私と寛司がここに来た時は空いていた教師の扉を、多分私に気を遣って先輩が閉めてきてくれたというだけでも感謝しなければ。
「ふふっ、本当に自分の可愛いに対して肯定感が低いんだね。まあ、自信満々な子よりはそっちの方が私は好きだけどねっ♪」
「す、すみません。迷惑かけちゃって……」
「いーのいーの! 有美ちゃんとは初対面だけど、もう私にとっては可愛い後輩ちゃんだもん。先輩としてお世話焼かせて!」
良い人だ、と思いつつ。私はゆっくりと腰掛けていた椅子から腰を離す。
立ち上がると、思っていたよりも衣装の自重がのしかかった。メイド喫茶で働いている人のメイド服がミニスカな理由がよく分かった気がする。
「よぉし、お披露目といこう! ″お互いに″、ね……っ」
更衣室のカーテンが開き、私は上履きを履き直して寛司の姿を探す。
チラチラと私の姿を見て「おおっ」と声をあげる人や何かコソコソ話をしている人。コスプレをしている人はたまたま誰もいなくて、このクラスの先輩方の視線が左右から刺さる。
人数にして五、六人。男女混じる彼らに私はどんな風に見られてしまっているのだろうか。とにかく……死ぬほど恥ずかしい。
「あっれ、彼氏君は……いない、ね。もしかして私達の方が早かったか」
「は、早いって? 一体何────」
「お、出てきた! ほら見て有美ちゃん、あそこ!!」
「へっ……?」
視界の先。私が入った更衣室のように簡易的な隔離空間。そこの仕切りとして用意されていたカーテンが、開く。
「ぃぴいっ!?」
そして、そこから出てきた私の好きな人は。
タキシードに身を包んで、こちらを見つめていた。