「ぴゃっ────!?」
思わず、喉の奥から無理やり絞り出したかのような変な声が漏れる。
メイド姿……私の、メイド姿!?
いいよ、なんて簡単に言えるはずがなかった。
あんなのは自分に自信がある、可愛らしい子が着る物だ。
世の中にはメイド喫茶なるものがあるけれど、あれだって。自分に一切自信のない子ならそこで働くなんて発想には絶対に至らない。どれだけ取り繕っていても少なからず「自分は可愛い」、「他人に可愛いと言われたい」という思考を持ち合わせているはずだ。
そして私には、そんな考えがない。
……少し違うか。寛司に可愛いと言われたい気持ちは……ある。めちゃくちゃある。寛司にそう言われるたびに私の心は高鳴るし、幸せのホルモン的なものが奥底から湧き上がってきてこう、心がポカポカするのは事実だ。
だけど、それはここでメイド服を着ることに対して首を縦に振ることには繋がらない。
きっと私がそれを着れば、彼は可愛いと言ってくれるけれど。それ以上に……私自信が、死ぬほど恥ずかしいのだ。
「や、やだ……よ。メイド服なんて、恥ずかしい……」
「でも有美、絶対似合うよ? こういうの着れる機会ってそうそう無いと思うしさ。勿論、有美がどうしても嫌だって言うなら諦めるけど……」
「う゛っ」
ああもう、ズルい。やっぱりコイツズルい。
何が私が嫌なら引き下がる、だ。
私は知ってる。これは寛司の作戦だ。そうやって言えば押しに弱い私が折れると思ってるんだ。
た、確かに? メイド服なんて着れる機会が少ないこと自体は事実だと思うけど。そもそも一生のうちにそれを着る機会が必要かと言われれば、そんなことはないはず。
騙されるな。いつもみたいに流されるな……。
「わ、私にはあんなフリフリ、似合わないもん。由那ちゃんみたいな子ならともかく……。い、いつも言ってるけど、可愛らしいのは私の柄じゃないんだって────」
「? 有美は世界一可愛い衣装が似合う子だと思うよ?」
「ん゛ん゛ん゛ッッ!!」
コイツ……ああもう、コイツッッ!!!
なんでこう、いつもいつも。寛司は私に対して一切の遠慮がないのか。普通そんなキザな台詞、スラスラとは出てこない。仮に浮かんだとしてもノータイムで口にはしないはずなのに。
寛司は、私への好きを常に直球で伝えてくる。思ってること、伝えたいこと。そういうのを一度頭の中で整理して直してから言葉にするのではなく、本音のままに。
「有美の可愛い格好、見たいな。ね、絶対似合うからさ。それは俺が保証する。だから一度、着てみない……?」
「ん、んんぅ。んんうぅう……や、やっぱり恥ずかしい、よ。周りにも見られちゃうし……」
「本当に…………だめ?」
「う、うぅあ……や、やめろぉ。その目で、見るなぁ……っ!」
クソ、くそぅ。絶対にこれ、寛司の作戦なのに。見たいっていう気持ちは本当だろうけど、いいように誘導されちゃってるだけなのに。
好きな人にそんな目で見られたら……心臓がキュッてなって、何も考えられなくなる。必死に逃げようと言葉を浮かべても簡単に霧散して、上手く形にまとまらない。
気づけば私の頭はもう、考えようとすることすらやめてしまっていて。寛司の純粋な瞳にちょっと見つめられただけで、身体が彼のために動こうとしてしまう。
「………………ちょっと、だけだからね?」
ああもう、なんで断れないんだ私。
なんで……恥ずかしいよりも、寛司に可愛いって言われたい気持ちを簡単に優先しちゃうんだ。私のバカ……。