自分達のクラスから少し離れ、いくつかのお店の前を通って目的地へと向かう。
寛司はいつもより少しだけ歩くペースが早かった。急いでいるのか、それとも意外とテンションが高くなっているのか。面倒臭がられるよりは勿論この方が良いわけだけど、そもそもどこに行くのか知らない私の中では余計に不安が大きくなる。
と、そんな事を考えながら手のひらの温もりを感じていると。寛司は足を止めて「あそこだよ」と指をさす。
「え……はっ!?」
指さされた先にあったのは、二年生のクラス店舗。そして視界にそれが入った瞬間、私は変な声を出してしまった。
まず咄嗟に目に入り異質だったのは受付の人の服装だ。
可愛い子が……チャイナ服を着ている。
一瞬肉まんとか小籠包みたいな、中華系の飲食店なのかと思った。でもそれはすぐに違うと察する。
何故なら────看板に堂々と、「コスプレ衣装撮影」と書いていたから。
「ちょ、へっ!? か、かか寛司!? これってその……いかがわしいお店じゃないの!?」
「え? 違うよ有美。だってここ高校の文化祭だよ? 健全なコスプレ写真を撮る場所だって」
「健全なコスプレ写真って何!?」
ここは高校。いかがわしいお店など無いと、分かっている。
けど……けどっ。お店の中からチラリと覗く衣装の数々は、とてもじゃないが健全と言い難い物もある。
チャイナ服に、和服。メイド服にセーラー服……そして、バニーガール。
よくうちの学校は許可を出したなと思った。確かに露出狂のようなとんでもないコスプレは置いてないみたいだけど……それでも、普通の高校ならまずこんなの許可しない気がする。
(と、というか寛司……こんな所に来たかったの……?)
ドクンッ、と心臓が脈打つ。
寛司にコスプレの趣味なんて無かったはず。いや、百パーセント無いとも言い切れなくはないんだけど。けど寛司の家にはニ、三日に一回はお邪魔してるし。衣装なんて置いてあったら多分気づく……はず。
となると、だ。ここでコスプレをするのは、いや、させられるのは間違いなく私だ。あんな服を着た私なんて想像しただけで恥ずかしくて、絶対に嫌なんだけど。
「ねえ有美、うちのクラスの出し物決める時のこと、覚えてる?」
「へひっ!? え? え、えと……」
確かクズな男子達がメイド喫茶って言い出して……そしてそれを女子代表で私が徹底的に反対した。その結果、薫が代替案として普通の喫茶店を提案して、それが票を集めて今お店として形作られていて……。
「俺、さ。有美の可愛い姿をみんなに見せびらかすのは嫌だった。だから有美が反対しなかったら俺が言おうと思ってたんだ。でも……さ。その根本は有美の可愛いを独占したいっていう気持ちがあって。逆に言えば……有美の可愛い格好を見たいっていう気持ちは、確かにあるんだ」
「な、何言って……?」
猛烈に嫌な予感がする。
この目をしている寛司はダメだ。自分の欲望に素直になってて、一直線に私を求めてくる時の目。
横目に振り向いてきた寛司は純粋な瞳で私を見つめながら、言う。
「有美のメイド姿……見たい」