第151話 彼氏にしか見せない姿4

 メイド服を着ることになってしまった。


 全然断るつもりだったんだけどな。気付いたら流されてしまっていて。寛司と二人で教室前の受付を済ませて、中に入る。


 どうやらここのシステムとしてはまず男女で更衣室が分かれており、希望によって同性の子が着付けをサポート。着替え終わった後は更衣室の中で写真を撮るのみで脱いでしまってもいいし、一度外に出て、あらかじめ用意されているフォトスポットで写真を撮ることも可能とのこと。


 ただ守るように言われたのは、コスプレをした状態で教室の外へは行かないということ。多分用意されている衣装の数に限りがあるからだろう。


「いらっしゃいませ〜っ……て、わぁ、めっちゃ可愛い子! 一年生かな?」


「は、はいっ。その……コイツにどうしてもって言われて……」


「ふむふむ、そっかぁ。彼氏君に言われて、ねえ。てか隣の彼氏君も死ぬほどイケメンだねぇ。美男美女カップルだぁ〜」


 中で衣装を紹介したり持ってきたりしてくれる係なのであろう先輩は、キャピキャピと眩しいオーラを放ちながら私と寛司の顔を交互に見つめる。


 可愛い、と言われるのは素直に嬉しいけれど。寛司と並べられて美男美女、なんて言われ方をすると、少しむず痒い。寛司がその……イケメンなのは、誰が見ても明らかだ。けれど私がそれに並べるほど出来た顔をしているかと言われれば。


 そんな自信を持ち合わせていられるほど、私の自分に対する自信は高くない。故に、目を背けることしかできなかった。


「ありがとうございます。確かに有美は世界一の美女ですね」


「ひゃ、ひゃあっ!? な、にゃなにゃなに言ってんの!? 恥ずかしいこと、言うなァッッ!!」


「うひ〜っ! この無慈悲に砂糖を顔面目掛けて投げつけてくる感じ。いいなぁ……。見てるだけで微笑ましくなるよぉ」


 ふざけるな。寛司のやつ、私の気も知らないで軽々と。それも人前で! せ、世界一……とかぁ……えへへ……じゃないッッ!!


 完ッ全に調子乗ってる。横で見ていれば分かる。私が折れてここに入ったことで、寛司のテンションは最高潮。口調はいつものように静かめだけど、手を握ってくる力がいつもより強い。


 離すまいと、大きくてかっこい……ん゛んっ。ゴツゴツした手で私の手を包み込むように掴み、熱を迸らせている。


「っと、そんなことよりも衣装かぁ。彼氏君は彼女ちゃんにどれ着てもらいたいとか、あるの? 一応種類は今飾ってある六つで全部だけど」


「はい。有美にはメイド服を着てもらおうと思ってまして。うちのクラスでメイド喫茶がボツになったんですけど、なんとか有美のメイド姿だけは見たいな、と」


「ちょ、そんなの……説明しなくていい、から。恥ずかしいから、やめて……っ」


「あ〜、彼女ちゃん顔真っ赤だぁ。でも声を大にして嫌だって言わないところを見ると、着る覚悟は決まってるみたいだね。よぉし、着付けは先輩に任せて! 彼女ちゃん素材が良すぎるから、最高に可愛いメイドさんに仕上げてあげる!!」


「お願いします。じゃあ俺はここで待ってたらいいですかね?」


「ん〜? ああ、そうだねえ。……にししっ♪ ごめん彼女ちゃん、ちょっと先に更衣室の中入っててくれる? すぐに衣装持って私も行くから!」


「へ? は、はひ……」


 見たところ、ここには待ち合い的なものに使える椅子などが無いから。あらかじめ用意していたものを寛司のために取りに行ったりでもするのだろうか。




 どちらにせよもう後に引けない私は、一人で先に。心細い気持ちになりながらも、更衣室へと足を踏み入れた。