「あ、中田さん……お、お皿。お願いします……」
「はいはいっ。ありがとひなちゃん、そこ置いといてー」
「あっ、はい……」
オムライスの入っていた空の皿を、ひなちゃんが返却口に置く。
ひなちゃん。うちのクラスの委員長で、大人しい子。私の中ではそれくらいのイメージしかなくて、喋る機会も今までほとんど無かったんだけど。
「ね、ひなちゃん。薫と文化祭まわってたって本当……?」
「へっ!? な、なななんでそれを!?」
「いやぁ、見たって子がいて。あ、別にダメとか言ってるんじゃないからね!? ただこう、不思議で……」
正直言って、意外だった。
薫とひなちゃん。タイプで言えばこの二人は正反対だ。変人なアイツと比べてこの子は絶対真面目な優等生タイプだし、そんな二人が私の知らない間に仲良くなっていて文化祭をまわっていたとは到底思えなかった。
だけど……どうやら今の反応を見る限り本当らしい。
「そ、その……大丈夫だった? お金たかられたりとか……」
「あ、ありませんよそんなの! か、薫さんは一人だった私に声をかけてくれて……一緒にまわろ? って、言ってくれて……」
「薫が!? アイツ、そんなこと言うんだ」
長く友達をやっている私でも、薫の行動は未だに予想し難いところがある。
確かに今回の文化祭、私と寛司、由那ちゃんと神沢君は二人きりでまわっていたから。薫はいつものように気を利かせてくれていたけれど、てっきり一人でまわっていたのだとばかり思っていた。
本当に、いつの間に仲良くなっていたのだろう。由那ちゃん達はこの事を知っていたのかな。
(まあでも……悪いことじゃない、よね)
親友に仲のいい友達ができたというのは、素直に嬉しい。それに元々私も一度ひなちゃんと話してみたいなと思っていたから、余計に。
「薫と仲良くしてあげてね。アイツ、変人だけど根はめちゃくちゃいい奴だからさ」
「あっ、も、もちろんです! む、むしろ私の方が仲良くしていただいてるといいますか……と、とととにかくがんばりましゅっ!」
「おーい、ひなちゃ〜ん? なかなか戻ってこないと思ったらなにしてんだ〜?」
「ひゃっ!? か、薫しゃんっ!?」
「……って、なんだ。有美と話してたのか。どーだ有美、めちゃくちゃいい子だろ、ひなちゃん。私のお気に入りなんだ」
「お、お気に入りって……。ひなちゃんに変なことしないでよ?」
「わ、私は全然……その、へ、変なことされても……だ、大丈夫……でしゅ……」
「ひなちゃん、何かされたら私に言ってね? コイツすぐセクハラしようとするから……」
「はっは〜、人聞きの悪いこと言うなぁ有美は」
ダメだ、少し不安になってきた。
せっかくこんなに純粋ないい子なのに。薫に毒されて変な影響受けるようなことにだけはならないようにしないと。
薫の親友として。そしてストッパーとして。可愛い子に目がないアイツが変なことしないよう、私がひなちゃんを守らないといけない。ひなちゃんが薫みたいになるなんて絶対に嫌だ。あんな変人は一人で充分過ぎるし。
薫に連れ去られホールへと戻っていくひなちゃんの小さな背中を見ながら私はそう、決意した。