「あ゛あ゛あ゛ぁ……もぉ無理。マジで無理。限界だってぇ……」
「ちょ、せんせ! まだお客さん残ってるんだから働いてよ!! ピークの時と比べたらこれでもだいぶ楽になったじゃん!!」
「う゛ぅ、タバコ吸いたい。お酒ぇ……」
「あ〜、ありゃもうダメだな。完全に目がイッてら」
喫茶店は昼に比べると少し落ち着いて。けど、まだ店内の半分ほどが埋まるくらいにはお客さんがいる状態だった。
けどピーク期を過ぎて全員余裕が出てきたのか、全員に笑顔が戻りつつある。一番忙しい時は裏方含めて全員死にかけだったのにな。
「お待たせ、在原さん。由那も着替えたらすぐに来るから」
「おいおい、ギリギリだな。どんだけイチャイチャしてたんだお前らは」
「う゛っ……」
結局ベンチでごろごろとイチャイチャを繰り返していたらシフトの時間ギリギリになっていたなんて、口が裂けても言えない。
というか湯原先生はいよいよ限界そうな気がする。もしかして結構シフトぶち込まれてたりしたんだろうか。確か管理してたのは在原さんだったけど。
「オ〜イ、湯原せんせ。五連シフトお疲れ様。一時間休憩だからヤニ入れてきていいぞ〜」
「ほ、本当か!? 嘘じゃ無いよな!?」
「あたまえっすよぉ。まあ一時間休憩したらラストまで頑張ってもらいますけど」
「ガッ……あ、在原お前、なんか私に厳しくないか? みんなシフトせいぜい多い奴でも三時間なのに、なんで私だけ七時間労働……」
「先生が一番使いやすいからですよ〜。みんなと違って、文化祭まわりに行かないみたいですし。あとは無駄にルックスいいから客寄せ要員です」
「お、鬼だ……私はなんでこんな生徒の担任を持ってしまったんだ……」
トボトボと小さな背中で、タバコの箱を片手にそう呟きながら湯原先生は教室から消えていく。
あの人ほど分かりやすく残念美人の称号が似合う人もそういないだろう。酒カスでヤニカスで、何事にもやる気を示さないクズな先生。
でもその反面、意外とクラスの奴から恋愛相談を受けたりいい意味でフランクに接しられたりと、人望が厚い人でもある。多分在原さんも口ではああ言っていたけれど、心の中では密かに頼りにしているのだろう。
「ったく。あの人もうちょっとシャキッとして着飾れば絶対モテるのにな。あのだらしない性格と何より男への興味が皆無すぎるせいで彼氏いた事ないんだってよ? 残念美人だよな〜」
「え? あ、そう……だな」
けどなんだろう。在原さんがそれを言うのか。あなたもあそこまでとは行かなくとも充分残念美人の部類には入っていると思うんだが……。
しかしまあ、そんなことを口にできるはずもなく。頷きながらそう答えていると、程なくして着替え終えた由那も現着。晴れて、メンバーが全員揃ったのだった。
「ごめん薫ちゃん、ギリギリになっちゃった〜!」
「ん、大丈夫だぞ〜。見ての通りいい感じに人が減ってきた。金はもうすでにガッポガッポだし、あとはゆったり稼がせてもらおうぜぇ」
「俺たちの手元にもちょっとくらいお金、入ってくればいいのにな」
「まあまあ。そこは一位取って高いお店に打ち上げ行くってことで手ぇ打とうや。……最悪足りない分は先生に出して貰えばいいし」
「な、なんか段々湯原先生が可哀想になってきた……」
あの人、この一年本当苦労しそうだな。なんて思いつつも、逆にあの先生でなければこのクラスをまとめるのは無理な気もして。
案外ここの担任としては適任だったのではないか、とも思った。俺も意外と、あの人を信頼しているのだろうか。