ランチボックスに詰められたサンドイッチは、全部で五個。
その中から左端にある一つ目を摘んで取り出した由那は、左手を添えながらゆっくりとそれをこちらに近づけて。あーんの体勢と共に俺に口を開けさせる。
されるがままサンドイッチを三分の一ほど齧ると、シャキッ、と乾いた音が響く。加えてすぐに口の中に広がったのは、甘めの優しい味。
このサンドイッチはツナマヨ。シャキシャキしているのはパンとツナマヨの間にレタスを挟んでいるからか。あと、ツナマヨの中にきゅうりがあるからそれも後の原因の一つな気がする。
「……美味っ。ツナマヨなんて久しぶりに食べた」
「あれ、そんなに久しぶりなの?」
「あ〜……おにぎりだとツナマヨを手に取るくらいには好きなんだけどな。ただ、ほら。最近は由那がお弁当作ってくれてるから。シンプルに機会が減ってるだけだよ」
「ふふっ、なんか嬉しい理由だぁ。ツナマヨそんなに好きならたまにお弁当のおかずに入れるね? 作ってみたらめちゃくちゃ簡単だったし!」
「ん、頼む。きゅうりも好きだから嬉しい」
「任せてっ! ツナとマヨときゅうり混ぜるだけだからにゃ〜」
咀嚼を終えた俺に続いて、由那も俺の歯形が場所からサンドイッチを一口。美味しそうに頬張るその頭を撫でてやると、甘えるようにすりすりが返ってくる。
こうしていると、やっぱり二人きりでほっこりする時間は大切だと思う。色んな所に行ってデートをするのも勿論好きだ。今日みたいに文化祭のような騒がしい場所に行くのも、モールのような様々なお店を歩き回る場所へ行くのも。
けど、やっぱり一番好きなのはこの時間で。誰にも見られず、邪魔されない。二人きりになれる場所での触れ合いには、他では摂取できない特別なものがある。
何も考えずに肩を並べてぼーっと過ごす。たまにイチャイチャも挟みながら、中身のない話をして。それだけで笑い合っていられる関係が、ただひたすらに愛おしい。
「風気持ちいいね〜。最近どんどん暑くなってきてるからぼちぼち衣替えかなぁ」
「そういえば来週だか再来週だかから、夏服着てきてもいいようになるらしいぞ。言ってももう六月後半だもんな」
「ほんと!? えっへへ、高校生活初めての夏服だぁ。ここの夏服、とっても可愛いんだよ? 普段のブレザーと違って白の半袖ワイシャツだけになるから、イメージもガラッと変わると思う!!」
「へぇ、ワイシャツか。由那の、ワイシャツ姿……」
「ふふっ、勿論彼氏さんには一番最初に見せに行くね。なんなら登校前夜に写真で送っちゃう!!」
「彼氏特権、最高だなオイ。なんてサービスの効く彼女さんなんだ……」
「でしょお! ゆーしの彼女さんは世界一彼氏さんのことを愛してますからね〜っ。はい、あ〜んっ♡」
「あ〜〜っ」
ツナマヨサンドの残りを口に入れられて、完食する。
予め俺達が露店の食事でそれなりに満腹になってしまうことを予期していたのか。一つ一つのサンドイッチはあまり大きくないサイズなうえにそもそも二人で半分ずつだから、かなりお腹に優しい。これなら順調に食べきれそうだ。
そういうところも含めて、全て計算通りということか。相変わらずこういうところに関してだけは、頭がよく回る奴だ。
「えへへっ、しばらくここでイチャイチャしてよっか。しばらく休憩してからお店まわりに戻ろ?」
「そうだな。結構なペースで歩き回ってたし、休憩は大事だ。後でクラスのシフトもあることだし」
「げげっ、忘れてたよぉ。まだ混んでるのかな……」
「流石に時間経ったしお客さんも引いてきたんじゃないか? ま、行ってみるまでは分からんけど」
「ぐにゅにゅにゅ……」
ごろにゃぁ、と喉を鳴らしながら、由那は俺にもたれ掛かりつつ思いっきりのびをする。
もう、完全にくつろぎモードだな。