と、いうわけで。
「こ、ここにしよっか」
「そう……だな」
俺達は結局すかさず移動して、由那がもしも裏庭を使えなくなった時のためのセカンドプランとして用意してくれていたもう一箇所のベンチへと腰掛けた。
こちらは校舎裏ではなく校舎横。学校で飼われている鯉がいる池のすぐ近くだ。
中田さん達がいた場所からそんなに遠くはないので少し怖い気もするが、ここもここで中々に人通りが無くイチャイチャし易そうで。かなりいい場所には違いない。
「ふぅ、ビックリしたぁ。まさか有美ちゃんが先客だったなんて。し、しかもあんなに大胆なこと……」
「俺も流石にギョッとした。あの中田さんがあそこまで、なぁ……」
好きな人の前でのみ見せる姿、というやつだろうか。寛司の上に跨り、トロんとした目で。あんな情熱的に愛し合おうとする中田さんを見てしまったことへの罪悪感はかなり凄かった。
普段から寛司の前では甘くなってしまう彼女だが、まさか二人きりだとあそこまでとは。しかもあのキス……やっぱりあの二人は付き合いが長めなこともあって、俺と由那よりも数段先にいるカップルなようだ。
俺もいつか、由那とあんな風に……。
「ゆ、ゆーし? なんか顔、エッチだよ?」
「えっ!? な、そんなわけないだろ!」
じぃ、と瞳が見つめて来る。
ああ、ダメだな。俺の心が見透かされてる。由那相手に隠し事なんて出来るはずがない。
「キス……する?」
「……する」
気づけば火照った身体同士は、俺たちを引き合わせていた。
多分、負けたくなかったんだと思う。なんというかこう……悔しかった、とは違うけど。やるせないというか、なんというか。もしかしたらただ、あのキスを目の当たりにして早く繋がりたいという欲が爆発しただけかもしれない。
「ん、ふぅっ。ちゅぅ……っ」
唇同士が、激しく触れ合う。
いつもよりお互い息が荒い。既に体温も熱く、抱き寄せた由那はもう湯たんぽのようにぽかぽかだった。
ただでさえ最近は平日でも昼に一度二人きりの時間がありそこで補充をする″癖″がついてしまっているので、お昼時を少し過ぎた今限界が近かったということもあるのだろう。
キスを通して由那成分が身体に流れ込んでくると、いつも以上に幸せを感じて。唇を離してからも続く余韻は俺の心を震えさせた。
「ぷあっ。えへへっ、ごちそうさまぁ。甘々ゆーし成分、大好きっ」
「な、なんか急かしたみたいになっちゃったな。気、遣わせてごめん……」
「いーよっ♡ 私だってその……やっぱりあんなの見せられちゃったら、キスしたくなっちゃうもん」
理由が何であれ、俺の方から積極的に求めてくれたのが嬉しかったらしく。由那はキスを終えた後も大変ご満悦で、笑顔の幸福度がさっきまでより格段に上がっている。
「私達は私達のイチャイチャ、しよ? 甘々度合いじゃ負けないもんっ!」
「だな。よっし、じゃあまずは彼女さんのお手製弁当食べたいな。なんやかんやでちょっとお腹減って来た気がする」
「ふふっ、お任せあれ! 由那ちゃん特製愛妻弁当、文化祭特別編だよっ!!」
巾着を開けた由那は、中からいつものお弁当箱とは違う、プラスチック製の長方形の箱を取り出す。
「オ〜プ〜ン!!」
中から顔を出したのはいつものようなご飯ではなく、ラップに包まれた色取り取りの食材達。
ツナに卵、トマト。きゅうりやハムにアスパラガスなど。そしてそれらは白い二つのパン生地に挟まれ、小さく。そして整った配置でコンパクトにまとめられている。
「今日のお昼ご飯はサンドイッチだよ〜。バリエーションいっぱい作ってあるから全部二人で半分こしよっ!」
相変わらずの手腕と、俺のために施してくれた目に見て取れる工夫。加えて口にされた「半分こ」という可愛らしい言葉。
もう味を確かめるまでもなく、俺の心は鷲掴みにされていた。