「い、いらっしゃいませ! すみません、今満席なので少々お待ちくださいっ!!」
「二番さんオムライス、三番さんパンケーキで六番さんハヤシライス!!」
「に゛ゃーっ!? ちょ、待って最初からお願い!! 全然覚えらんないよぉ!!」
文化祭がスタートしておよそ四十分が経った。
結論から言おう。────大盛況である。
在原さんの作戦型と言うべきか。初めの十五分ほどは客数が落ち着いていたものの、撮影禁止ながらにも「一年三組の喫茶店にめちゃくちゃ可愛い子がいっぱいいる!」という情報がすぐにSNSで出回った。かっこいい人が、というのもかなり広まったようで、一年生の他のクラスの奴らに先輩、あと学外の人なんかも。男女問わず急に雪崩れ込んできて、気づけば大忙しだ。
俺含めホール全員が走り回り、裏方の調理担当の人も作る手が止まらない状態。そこまで死ぬ気で働いてようやくギリギリ回せている状況だ。由那も涙目になりながら必死に注文を覚えて運んでいる。
「なあ、あの子可愛くね!? ほら白い髪の子!!」
「しかも可愛いだけじゃなくて、あれ!!」
「でっっっ────」
「お待たせしました、オムライス二つです。あとうちの女子を変な目で見るのはやめてくださいね」
「へっ!? あ、はい。すみません……」
全く、こうなるから嫌だったんだ。由那レベルの美少女が注目されないはずがない。ただでさえ可愛い奴が可愛い格好をしているんだ。俺だって多分客としてここに来ていたら自然と目を惹きつけられてしまうだろう。
だけど……彼氏としてはやはり、看過できる問題ではないな。
「ね、あの人かっこよくない!? スラッとしてて!!」
「あ〜、あの人噂になってるよ。私のクラスの女子も一年にかっこいい人いるって騒いでたもん」
「でも彼女持ちなんでしょ〜。ぶぅ、有料物件なのに」
「なんでアンタが狙える前提なんだか」
他の客席からは寛司に向けられた声も聞こえてくる。たまに耳に入ったら寛司はその相手に向かって軽く会釈して、心を鷲掴みにしているようだ。多分本人には大した自覚のない行動なのだろうが、同じ男としては腹立たしい事この上ない。うちのクラスの男どもが嫉妬する時はこんな感情なのか。
「じー……」
「っえ!? な、なんだよ由那か。びっくりした」
「……さっきからゆーしのことかっこいいって言ってる女の子、チラホラいる。ね、私のものだってマーキングするために今ここでキスしていい?」
「い、良いわけないだろ!? ちょ、仕事戻れって!! 料理どんどん出来上がってってるから!!」
ちなみに、後々知った話だが。どうやら俺と由那が付き合っているというのは校内生徒のほとんどが知るところなようで。在原さん達がたまにナンパされている中、俺と由那だけはそういったことが一向になかった。いやまあ、無くていいんだが。むしろありがたいし。
(って、由那また俺の方見てる……。どんだけ嫉妬深いんだアイツ)
いや、それは俺も同じか? さっきから気づけば由那のことを眺めている男子にばかり皿を運んでる気がするし。ま、まあ仕方ないよな。うん。やっぱり俺の由那を変な目で見てる奴がいたら黙ってられない。
「……寛司ぃ。やっぱり行かせるんじゃなかったかも。あのバカ……」
「え〜、もう困っちゃうなぁ! 私そんなに可愛いかぁ!? これでナンパ六人目ゲットだぜ!! まあタイプじゃないから付いてかないけどな!!」
「だるいぞこれぇ。なんで私まで手伝わなきゃいけないんだ……。いくら賞取れたら打ち上げで酒飲み放題だからってよぉ……」
「ひゃ、ひゃひっ!? ごめんなさい、溢したジュースの代わり、すぐ持ってきましゅっ!!!」
そうして、まだまだ待ちで長蛇の列ができる中。ようやく最初の一時間が終わると交代組がホールに出て、仕事を引き継いでいく。
在原さんと蘭原さんは二時間連投、先生、寛司、俺と由那はここで入れ替わりだ。
「お疲れ様、勇士。着替え行こうか」
「お疲れ寛司。なんかドッと疲れたわ……」
まだシフトは二時間残っているが、ひとまずこれで午後の三時までは由那と自由な時間を過ごせる。
疲れていることとこれは別。由那とここからイチャイチャできると思うと、活力が湧いてくるというものだ。
「ふふっ、着替えるの早いね。そんなに早く江口さんに会いたいの?」
「あったりまえだろぉ。由那成分でHP回復しないと」
「告白せずにウジウジしてた人とは思えない発言だね」
「うるさい。お前も中田さん待ってるだろ?」
「っと、そうだった。早く行かないと嫉妬してる有美が寂しがる」
急いで制服に着替えた俺たちは、各々の目的を胸に。すぐ更衣室を出て、お互いの想い他人が待つ場所へと足早に向かった。