「あ、ゆーしゆーし! こっち!!」
「ごめん先来てたか。待たせちゃったな」
「ううん。今来たとこだよ〜。それよりほら、早く行こ!」
「だな。お腹空いたわ」
制服姿で向かいの窓を鏡代わりに使い、前髪を直していた彼女の姿を脳裏に焼き付けつつ。俺は後から集合場所へと合流した。
今来たとこ、なんて彼氏側が言わなければいけない台詞な気がするが。俺との待ち合わせまでの時間で髪を何回も弄っては整えている姿なんて見せられたら、嬉しくてつい見ていたくもなるだろう。
なんて自分の中で言い訳していると。隣からスッと手が伸びてくる。
「手、繋ぐのか? 他の奴に見られまくるけど」
「当たり前だよ! むしろ見せつけて、ゆーしを使う悪い泥棒猫さんが出ないようにしなきゃ……っ!!」
「いないと思うけどな、そんな物好き」
「? ゆーし、実は裏で結構モテてるんだよ?」
「っえぇっ!? そ、そうなのか!?」
「あったりまえだよ。世界一かっこいいもん、ゆーしは!!」
「あ、あはは……なんか照れるな……」
マジか。これまで一度もモテたことなんてなかったけど、案外そうだったのか? いや、それとも由那なりの慰めだったり? まあ……後者だったらちょっと惨めだけど。俺のことを好きでいてくれる人は今隣にいる奴だけで充分すぎるしな。
「もぉ、早く繋ご? さっきまでいっぱい働いて由那ちゃんゲージへにょへにょだから、ゆーし成分で回復しないと!!」
「はいはい。あんまり時間もないし、早速行くか」
きゅっ、と指を絡めて恋人繋ぎを作ってから、二人で横並びになって廊下を歩く。
とりあえず一階の端から順に見ていこうということで、まずは一番近くにあるフランクフルト屋さんへ。お腹の減っていた俺たちは一本ずつ購入し、それを食べ歩きしながら進んだ。
一応予定は立ててある。といっても詰めすぎてギッシリになっているので、時間を見ながら削っていく前提だ。どこかのクラスに長居してしまう可能性だってあるしな。
「はい、ゆーしっ。あ〜〜ん♡」
「あ、あ〜……」
周りに人がいるというのに。一口かじったフランクフルトの断面をこちらに向けて、口を開けさせてくる。
明らかにこちらへと向けられたいくつかの視線に恥ずかしくなりつつ、ぱくり。何度か咀嚼して飲み込むと程よいケチャップ風味とガッチリした噛みごたえのあるフランクフルトは、抵抗なく喉を通っていった。
「ねぇ、ゆーし? 私もゆーしの食べかけ、欲しいなぁ……」
「はい、自分で食べて」
「いじわる!! 私にもあ〜んで返してよぉ!!」
「分かった、ごめんて。ほら」
「あ〜〜♡」
お互いに一口かじった後のフランクフルトを交換し合うという、謎すぎる行為。だが不思議と自分で食べた時よりも由那のあーんで食べた時の方が、何倍も美味しく感じた。料理は愛情、なんて文言を聞いたことがあるけれど、後付けされた調味料的愛情でもここまで効果があるとは。
「ふふっ、間接キスで充電速度は早くなっていきます。由那ちゃんバッテリーがちょっとずつ上がってきてるよぉ!!」
「なんじゃそりゃ。満タンになったらどうなるんだ?」
「ゆーししゅきしゅきが溢れ出てイチャイチャ欲が上がるよん」
「……それ永久機関化してないか?」
イチャイチャでゲージを貯めて、満タンになったらイチャイチャ欲が増すって。何ともまあ適当言うもんだ。
「でも、ゆーしはその方がいいでしょ?」
「んぐっ……それは、まぁ……」
「えへへ〜。ずっとイチャイチャしよ〜ね!」
結局、好きな人相手には口答えできないな。正直由那とイチャイチャできるならもう何でもいいかと思い始めてる俺がいるし。本当、コイツに対してはいつも甘々だな、俺……。
「あ、ねえねえあそこ! 入ろ〜!」
「ちょ、まっ。フランクフルト落とすって!」
振り回し振り回されてのイチャイチャ祭りはまだ、始まったばかりだ。