第121話 最強の布陣

 迎えた当日。一年三組メンバー一同は装飾の終わった教室の真ん中で輪を作り、集合する。


 連日続いた準備のおかげもあり、教室は見事に喫茶店へと早変わり。白と黒、加えてピンクに水色など、女の子寄りの飾り付けによりとてもオシャレに仕上がったと思う。文化祭が終わったら元に戻してしまうというのが勿体無いくらいだ。


「ね、せんせ〜! なんか気合の入る号令してよ。もうそろそろ始まるからさ〜!」


「それいいね、天才! 湯原せんせ、お願いしま〜す!!」


「あ゛あ〜? ったく仕方ないな。こういう青臭いのはあまり好きじゃないんだが……よし、円陣組め〜」


 クラス全員が肩を組み、輪をより強固なものとする。


 すぅ、と小さく息を吸った湯原先生はいつものように少し気だるそうにしながらも、楽しそうで。ニヤリと口角を上げてから叫んだ。


「お前ら、せっかくの文化祭だ。売り上げ一位取って優秀賞取っちまおう!! 賞金で打ち上げ行くぞォォォ!!!」


「「「「「「おーーーーっ!!!!!」」」」」


 全員の掛け声と共に前に出された左脚は、文化祭のスタートを告げる午前十時と共に強く踏み込まれる。


 この文化祭では店の売り上げが俺達に還元されることはない。費用を全て学校に負担してもらっているから、当然売り上げも全部吸われてしまう。


 が、最優秀賞、優秀賞、校長特別賞のいずれかに選ばれたクラスには一部現金が還元される。その金額に上限はあるものの、クラス全員で打ち上げに行くには充分な額が。実際に今まで賞を取ってきたクラスもそのお金は打ち上げにのみ使う事を許されたらしい。


 これは校長が今の人に変わってから始まったことらしいが、やはり学校を経営する人なだけあってやる気の出させ方が上手い。百パーセントなんのメリットもない文化祭と賞に入ればタダで打ち上げに行ける文化祭では、生徒のモチベーションが全然違うだろうしな。


「よぉ〜し。最初のシフトの奴らは早速着替えてこぉ〜い!! 導入は大事だからな、最強の布陣を揃えた!! 私含めまずは注目の的になって客引くぞ!!」


「じゃあ着替えてくるね。ゆーし、頑張ろっ!!」


「っし。気合い入れるかぁ」


 在原さんの語った″最強の布陣″というのは、そのままの意味でまさにうちのクラスの中で特にかっこいい奴、可愛い奴、そして接客の上手い奴を最初に集中させた布陣のこと。


 決め方はクラス全員の匿名投票と立候補。最初の一時間でウエイトレスをする六人は、そうやって決められた。


 まずは私は可愛いからと唯一立候補した在原さん。そして女子からは投票で上位を勝ち取った由那と蘭原さん、加えて湯原先生。男子は何故か由那とのセット票のように投票されまくってしまった俺と、顔が良い寛司。


 中原さんもこの投票に参加さえしていれば選ばれるのは確実だっただろうが、本人の意思で不参加。入っている仕事は全て寛司との裏方らしい。だから寛司がウエイトレスとして接客をするのも、この一時間だけだ。


「寛司……他の女の子に靡いたり、しないでよ?」


「ははっ、大丈夫だよ。俺は有美のことしか考えてないし」


「…………ん」


 各々解散し、男女に分かれて着替える。




 ついに文化祭、スタートだ。