「ね、ゆーし? 後ろ向いて?」
「分かった」
一度手を解き、ごろんと身体を半回転させる。
目の前には壁と小さなぬいぐるみ。由那に背を向けた状況で何をされるのかと少し怖いが、やがて後ろからぽかぽかした湯たんぽがひっついてきた。
「ぎゅ〜!」
首元に手を回し、身体を密着させる。俺はされるがままに包み込まれるわけだが、もふもふ寝巻き越しに感じる柔らかさを押し付けられてしまうとこのままでもいいかと思ってしまう。
そして極め付けは、首元に回された右手とは別に俺の手を可愛く握ってきた左手。どうやら手はずっと繋いでいたいらしい。
「ぎゅっ、ていつもされるのは勿論好きなんだけど、するのも大好きなんだぁ。ゆーしもぽかぽかで気持ちいぃ〜」
「な、なんか照れるなこれ」
「ふふっ、いつもゆーしの胸の中に包まれてる私はいつもそんな感じだよぉ? 幸せをホルモン、いっぱい上がってこない?」
「……上がってきてる。たまには抱きしめられる側もいいな。最近は抱きしめる側がほとんどだったから」
「えへへ、嬉しいっ」
むにゅむにゅ、と形を変えながら背中に密着していた巨峰が一度離れると、次は少し下へと移動。それと同時に由那の熱々おでこが、ぴっとりくっついて。頬すりと共に背中を堪能しているのが伺える。
由那はよく、俺と密着する時は鼻や頬を近づけてくることがある。匂いを嗅いだり、頬で感触を確かめたり。彼女なりの愛情表現なそれらは、懐いてきた小動物のようで死ぬほど愛おしい。
「私、これクセになっちゃいそうかも……。ごろごろイチャイチャ、しゅごい。布団に包まれてるだけでこんなにぽかぽかしちゃうんだ……」
「あ、ちょっ! 脚っ!?」
「もっとぎゅっ、しよ? 腕だけじゃ足りないよ」
「っっっ……!」
緩い寝巻きの裾が捲れて真っ白な膝下が映し出されると、それと同時に脚へと絡み付いてくる。
由那の奴────本気だ。本気で甘えに来てる。
「ゆーしの背中、おっきくなったね。かっこいい……。腕も、意外と細くて。しゅき。可愛くてかっこよくて、とにかくもう全部しゅきぃ」
首元に生暖かい息がかかる。
一度むくりと顔を起こしてから、うなじや肩、肩甲骨付近を何度もすりすりし、次第に声がうっとりと色っぽくなっていく。
昔の俺なら、もう今頃布団から飛び出てしまっていただろうか。恥ずかしい、こっちもおかしくなりそう、これ以上は……と。
だが今の俺には、そんなのよりも大きな一つの想いが芽生えている。
背中を向けて、抵抗もしてこない相手を一方的に堪能? 好きを何度も呟いて、自分だけ相手のことを好きにして。そんなの────
「ズルいぞ、由那。そろそろ交代しろよ」
「へっ? ────ひにゃんっ!?」
ズルいじゃないか。俺だって好きな人のいろんなところを堪能したいという気持ちはあるのに。堪能され続けるだけじゃ、終われない。
身体をいきなり反転させて、ゼロ距離で振り向く。情けない声をあげた彼女を、次は俺の番だと。次は俺に堪能させろと。肩を押して、向こうに向けようとした。
だが……
「ま、待って。ごめん……後ろからは、やだ」
「? 何でだ?」
「わ、私のこと、その……好きにしてくれるのは、嬉しいけど。前からじゃ、だめ? まだゆーしのこと、堪能し足りないの。……正面からぎゅっ、しよ?」
「ぐぬっ。俺もたまには背中から由那のこと、抱きしめたいんだけどな?」
「うぅ、ううぅ。分かったよぉ……。でも、絶対その次は正面からね? 向かい合って、キスしながら……いっぱいぎゅっぎゅしようね?」
「ああ、勿論。約束する」
「……うんっ」
正面ハグイチャイチャの約束を交わすと、ようやく観念したらしい彼女はゆっくりと後ろを向いて。少し縮こまった様子で恥ずかしそうに、声を上げる。
「優しく……してね?」
「〜〜〜っっ!!」
ああもう、だからそういうところなんだよな。マジで……