(由那の首元……なんか、色っぽいな……)
セミロングな白い髪が分かれてチラリと覗くうなじに、思わず息を呑む。
好きな人の無防備な背中。好きにしていいというその意思表示には、何か変なものに目覚めてしまいそうになるほどの引力を感じる。
「じゃあ、行くぞ」
「ん……ひにゅっ……」
横腹と布団の間から腕を通して、腰から身体を引き寄せていく。
細すぎる腰回りと元々華奢で軽い体重のせいか、横になっている彼女の身体の下に腕を通しているというのに。不思議と圧迫感というか、苦しい感じも痺れる感じも全くしなかった。
むしろ身体中を駆け巡るのは、由那を手中に置いているのだという幸福感と優越感。
これから彼女のことを好きにできるのだと思うと、たまらなく気持ちが高揚した。
「む、むぅ。最近ちょっと太っちゃったからお腹さすさす、やだ……」
「え? これで太ったとか冗談だろ?」
「本当だもん。幸せ太り、かも。ちょっと体重増えちゃった」
「これでも細すぎる方だと思うけどなぁ……」
確かに由那の身体は柔らかいが、それは太っているからとかではない。単純に女の子だからである。俺は流石にコイツの体重を聞いたことがあるわけじゃないけど、少なくとも標準より細いのは確かだ。
水着姿を見た時も、たまについ最近お家デートした時にチラリと見えてしまった時も。変わらず線は細くて、女の子目線からもきっと理想的なくびれなのであろうといった感じのスタイルだ。
「ゆ、ゆーしがそうやって甘やかすから、だよ?」
「えぇ。まあ由那が何と言おうと俺は甘やかすのをやめないけどな」
「にゃっ……なでなで、しゅき……」
「やっぱり甘やかされ体質だよな、由那。撫でられてる時が一番幸せそうだわ」
顔が見えていなくても分かる。その漏れ出た小さな呟きは間違いなく喜びからきたもの。際限なく上がり続けている体温も、無意識か俺の手に手を重ねてまた繋いできているところも。本当、可愛い。
もこもこのパーカー越しに由那の温もりを堪能しながら、抱きしめる力を強めた。
まるで猫のように丸くなりながら腕の中に収まる彼女を湯たんぽにして、しっかりと暖を取る。この温もりを感じているとつい眠りそうになってしまうけれど。段々と俺の方も体温が上がってきて瞼が重くなり始めたのを感じていると、由那は口を開く。
「ね、ゆーし?」
「どした?」
もぞもぞ、と小さくその身体が動いて。そっと俺の右手を両手で握りしめて、さすさすしながら。それを自分の顔の前に持ってくると、手の甲に柔らかい感触を走らせる。
もちもちしていて、ハリがある。摩り付けられたのは頬だ。猫のように甘える頬擦り。
────限界、だろうか。
「またキス、したくなってきちゃった。ゆーしに湯たんぽ抱き枕さんにしてもらうのも幸せだけど……やっぱり私もぎゅっ、返したいなぁ」
「相変わらず、甘えることに関してはワガママだな。まだ俺、堪能し切れてないんだけど」
「……ワガママな私じゃ、嫌?」
「いいや。最高に可愛い」
抱きしめていた腕を引っ込めると、ゆっくりと由那の身体がこちらへと反転する。
軽く潤んだ瞳が数秒、じぃっ、とこちらを見つめてくると、軽い微笑みと共に。脇から細い腕を通される。
それに呼応するようにこちらは左手を頭の下に、右手を肩周りに当ててやると。どうやら体勢がお気に召したらしく、そのまま衣擦れ音が近づいて。
「やっぱり、正面が好きぃ。キスしながらぎゅっ、できるもん」
「俺も。こっちの方がしっくり来た」
「えへへ、両想いだぁ」
「前からだろ」
薄暗闇に包まれて。今日何度目かも分からないキスをする。
お互いに遠慮のない、ただ好きを伝えるキス。伝えて、伝えられて。そうやって好きを好きで返すのが気持ちいい。
またこの後も時間をたっぷりかけて、キスとハグに塗れたごろごろイチャイチャを繰り返すのだろう。そう、思っていたのだが。
異変が起きたのは、およそ数回に及んだそのキス行為の途中。
お互いに身体がぽかぽかしていて、力が抜けていた。それゆえに起こった事故。脱力して唇に至るまで全てを相手に委ねていたからこそ、それは起こってしまった。
「ん……ちゅ。ちゅぅ……っっっ!?」
「ん゛、ん゛んっ!?」
くちゅ、ちゅぷっ。
小さな水音が、二人の繋がった唇から鳴る。
(今……えっ……?)
伝う一滴の唾液。
それが何を示しているのか。俺たちが理解するまでに、そう時間はかからなかった。