「ね、ねぇ何あれ!? ひなちゃんめちゃくちゃ怖かったよ!?」
「忘れろ、忘れるんだ。あれは多分深く考えない方がいいやつだから」
緊張の糸が解けたのか、由那は学校を出た途端泣きついてくる。
いや、まあ泣きじゃくりたくなる気持ちも分かる。
一瞬見えた蘭原さんのオーラ。あれはなんと言えばいいのだろう。ストーカー? ヤンデレ? まあとにかく狂気を孕んだ、闇系のものだった。
ただ相手があの在原さんだし。あれくらいの狂信者の一人や二人いてもおかしくないか。うん……おかしくないはずだ。
「よ、よし。とりあえずここからどうする? なんやかんや夕方だし、そこそこ良い時間になってきてるけど」
「へ? んみゅぅ。どうしよ、さっきの衝撃で何も考えれてなかったよ……」
「だよなぁ。どうする? 今日はもうやめとくか?」
「それはヤダ」
「お、おぅ……」
即答である。だよな、そうだとは思ってた。
ならもう完全に切り替えて、さっきまでのは忘れよう。忘れた上で由那とのイチャイチャを楽しむとするか。
今の時刻は午後五時過ぎ。確か由那の家の門限が七時か八時くらいだった気がするから、二、三時間一緒にゆったりと過ごせる場所だな。
候補は正直いくらでもある。中田さん達みたいに喫茶店に行ってもいいし、あとは近所のショッピングモール。今日は過ごしやすい気温をしているから公園のベンチに座って談笑してあるだけでも楽しそうだ。
また俺の家に……とも一瞬考えたが、確か今日はお母さんが早めに帰ってくると言っていた気がする。別に由那を合わせられないとかはないが、ゆっくり過ごせるとは思えないな。色んなことを根掘り葉掘り聞かれている間にあっという間で門限の時間が来るのが目に見えてる。
そう考えたら本当、俺の家以外ならどこでもいいな。結局はどこへ行こうと由那とならそれなりにゆったりイチャイチャできるわけで。ならやっぱり由那の行きたいところに行くか。
「やっぱり由那の行きたいところにしよう。俺は候補多すぎて決まんないから」
「そ、その振り方はズルくない!? 私だってゆーしと行きたいところ、山ほどあるもん!!」
「はは、ごめんって。で、その中で候補は絞れそうなのか?」
「むむ、むむむむむ……」
俺の行きたいところか、由那の行きたいところか。どちらにせよ候補は絞らなければいけないし、早くしないと行ける場所も限られてくる。
できるだけ早めに決めてもらいたいものだが、急かすのは自分勝手か。そもそも決定権を押し付けてるわけだし。
まあもし決まりそうにないんだったら俺も案を絞っておくか、なんて考えていたのだが。珍しく真面目な顔で熟考すること数十秒。ようやく由那は答えを見つけたようだった。
「そうだ、前ゆーしの家行ったし、次は私の家おいでよ〜! 本棚組み立てるのも手伝ってほしいし、ねっ!!」
「あ〜、由那の家、か……」
そういえば最後に行ったのっていつ以来だっけ。
前のテスト期間、何回かお邪魔させてもらったけど。なにげにかれこれ一ヶ月くらいは経ってるか。
(……って、ちょっと待てよ)
そうだ。俺、憂太とあれから会ってない。
由那のことを一人の女の子として好きになってしまっているアイツに、コイツは俺が貰うと勝負宣言をして。それっきりだ。
コイツすぐ惚気そうだし、当然もう俺達が付き合っていることは本人の口から聞かされているだろうが。
だとしても少し気まずいな。
「憂太もゆーしに会いたがってたよ? ね〜え〜、来てよぉ〜!」
「へ? お、おいちょっと待て。憂太会いたがってるのか? 俺に??」
「うんっ。久しぶりに遊びたいって言ってた!」
「マジ、か……」
一体どんな心境の変化だ。あんなことがあっててっきり俺のことをまだ嫌っているものだとばかり思っていたのに。
「そ、そういうことなら。分かった、じゃあお邪魔するか」
「えへへ〜、やったぁ!!」
また前みたいに、喧嘩とかにならなければいいけど。