「「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
情けない声を上げながら、二人でスライダーを滑り落ちていく。
カーブが訪れるたびガクンッ、と大きく揺れる浮き輪に思わず空中へと身を投げ出されてしまうのではないかなんて心配までしながら、落ちていくしかない身体でただひたすらに風を感じていた。
「こっわ!! はぁ!? 速ァァァァァ!!!!」
「ゆーしぃ! ゆーしぃぃぃぃー!!!」
後ろから聞こえる涙声は当然、由那のもの。必死で俺の身体にしがみつくと、迫り来る恐怖に耐えていた。
ああ、乗るんじゃなかった。ジェットコースターも乗れない俺が乗っていいものじゃなかったんだ、これは。
まるで悟るように澄んでいく心。恐怖のデッドゾーンを超えてしまった俺は、死をも覚悟し後悔に身を寄せる。
何が二回乗ろう、だ。こんなの一回で瀕死になるに決まってる。大体高速で滑り落ちたところで一つもいいことなんて────
ぽにゅっ、ぽよんっ。
「へ?」
時が止まる。
それは、背中を襲った柔らかい刺激から。むにゅむにゅとスライムのように形を変えるそれは、激しく押しつけられている。
(あっ……)
ぎゅぅぅぅ、と力強く俺の腰に手を回して抱擁を続ける彼女の、豊満な胸元。いつも腕に押し付けられたり正面から抱きつかれた時に存在感を感じたりしてはいるものの。
改めて触れられると。みっちりと肌に触れて離さないその引力は抜群で。自分が死の窮地にいることすら一瞬忘れさせてくれるほどに、気持ちがいい。
「由────」
「うにゃぁぁぁっっっ!?」
「かぼぼ、ぐぼがぼごぼ!?!?」
だが、天国は続かない。
ザパァァァァァァァァァッ。
すぐに現実に戻された俺は、気づけば水中にダイブしていた。
着水と同時に浮き輪から投げ出され、由那と二人で水中に沈む。
「────ぷはっ!?」
「ひ、ひうぅ……」
「大丈夫か、由那!?」
「あう。めちゃくちゃ怖かったよぉ……」
プールサイドから俺たちの無事を確認している監視員さんと一瞬目があってから、すぐに由那の元へと水をかいて。ぷかぷかと浮いている馬鹿でかい浮き輪と共に二人で水から上がる。
どうやら堪えたのは俺だけじゃないらしい。予想していたより遥かに怖かったのだろう。手を繋ぎながらベンチへと向かう彼女の脚は、少しフラついていた。
「馬鹿みたいに怖かったな、マジで」
「うん。落ちちゃうかと思って……あ、でも」
「? でも?」
「……ゆーしの背中、おっきくて。ぎゅっ、したらしゅきしゅきって。色々溢れてる間に、気づいたら水面が目の前だった」
「へっ!?」
ドキッ、と心臓が跳ね上がる。
胸の前にそっと手を乗せて、まるで恋する乙女みたいな仕草で小っ恥ずかしい台詞を吐いてくる由那に、思わず。かあぁ、と顔が熱くなっていく。
(由那も、同じだったのか……)
背中と胸では、真面目さというかなんというか。かっこいい可愛いみたいな分類が色々と違ってくるかもしれないけどな、とは思いつつ。背中に抱きついてからの由那がそんなことを思っていたのだと気付かされると、胸の内から色んな感情が湧いてくる。
「ね、ゆーし。二回目滑るのはやめて、このままイチャイチャしよ? ベンチに座って、しゅきって。いっぱいしゅきって、したい」
「な、何する気なんだ? その″しゅき″って」
「えへへ……改めて言うの、ちょっと恥ずかしいかも」
「恥ずかしいこと、するのか!?」
「……もぉ。なんで男の子ってこう、エッチなのかなぁ。でも、その……ね? ちょっとなら、いーよ? ゆーし相手なら、私……」
「ちょ、ちょちょちょっとって────おわっ!?」
周りに人がいて。いっぱいいて。そんな、ただのプールサイドのベンチ。何一つ俺たちを隠せるものはなくて、誰からも見える位置なのに。
ふわり、とプールの塩素の匂いをかき消してしまうほど甘い、そんな匂いがしたその瞬間。唇を柔い感触が伝う。
真正面からの、堂々としたキス。一度座っていたベンチから腰を上げて、首元にそっと腕を回してから急接近した由那に唇を奪われると。ピリピリッ、と頭に緩い電撃が走って。さっきまで感じていた恐怖とか、動揺とか。そういうのが全部消え、言葉が途切れてしまう。
「お、ま。絶対誰かに見られてたぞ……」
「じゃあ、人に見られないところ……行く?」
「────行く」
にへぇ。甘く緩い、満足げな笑みを浮かべた彼女に手を引かれて。プールから離れていく。
熱に塗れ、好きに溢れ。そんな俺達が向かう、その先は────