「ん〜!」
ギギッ、キュィィィィッ。
「てぇいっ!!」
ひゅぅっ。ぽわん、ぽわん。
「なんのぉ!!!」
ギャリリリリリッ。パゴンッ。
細い手に握られたコントローラーが身体と一緒に左右へ揺れるたび、カートが見るも無惨に痛めつけられていく。
カーブが現れればドリフトのしすぎでコース外へ転落し、壁が現れればもれなく全てに衝突している。ゲームキャラとはいえもはや同情してしまうレベルだ。
(ただ……可愛いんだよなあ)
コントローラーを使ってレースゲームをする時、右や左へ曲がるたびに身体が釣られて同じように揺れてしまう人がいるのだという。
どうやら由那はそれの典型だったらしく、俺の前で左右にゆらゆらと揺れながら、気合いだけは十分のゲームプレイを楽しんでいた。
「由那、知ってるか? コントローラーってのは指先だけで動かすから別に身体を使う必要はないんだぞ?」
「? 知ってるよ……?」
そしてどうやら、揺れている自覚は一切ないらしい。俺の言葉にまるで「何言ってるの?」とでも言いたそうに反応してくるきょとん顔に思わず笑ってしまいそうになりながら、俺は余裕の一位でレースを終える。
というわけで。あとはこのド下手な可愛い生き物の生態を見守るだけである。
「ね、ねっ! ゆーしぃ!! 操作分かんないよぉ〜!!」
「自力で頑張るんだな。俺は後ろで頑張って笑わないように見守るから」
「わ、笑っ!? ぐぬぬぬぬ、こんのぉ……」
ギュイッ、ガギャギャギギャッ。
そうしている間にも由那の操作するカートは悲鳴を上げ、コース外へと消えていく。
ダメだ。笑ってやったら流石に可哀想かと思っていたが耐えられる自信がない。
「ぷっ、ぷふっ」
「あ〜っ! 今ゆーし笑った! 笑ったぁ!! いい加減手伝ってよぉ〜!!」
「ったく、仕方ないなぁ」
まあ手伝うと言っても、できることは限られているのだが。
俺が操作を代わってしまっては意味がないし、由那も面白くないだろう。
だから────
「ぴっ!?」
「この状態なら、少しは手伝えるだろ」
後ろからそっと由那の腰回りに手を回し、抱き締めるような形を取りながら、コントローラーを握る彼女の手にそっと自分の手を添える。
「む、むぅ。はう……。なんかこの体勢、新婚さんみたい……」
「あっついな、手。緊張してるのか?」
「あたっ、当たり前だよっ!? だってこれ、ゆーしにぎゅっされてる状態でゲームなんて。ゆーしとゆーしの服に包まれていられるなんて、幸せすぎてどうにかなりそうだよぉ……」
かあぁ、と耳まで真っ赤にしながら、由那は言う。
そして思った。彼女の恥ずかしがっている表情は、やっぱり可愛いと。
半分ほどこちらに振り返ってくるその顔に笑みを漏らしそうになりながら、俺は握る手の力を強める。
もう離さない。逃がさないと。そう、示すために。
「俺も、正直割と恥ずかしいんだけどな。まあこのままだと全く勝負にすらなりそうにないし。仕方なくだよ」
「むっ。私のこと抱きしめたかったからとか、言ってくれないの……?」
「言ってやんないよ。ほら、続きやるぞ」
「…………ズルいなぁ、もう」
ぽそりと呟いたその言葉を聞き流しながら。「PAUSE」と表示されて一時停止された画面を元に戻して。
レースを再開した。