「ゆーしっ♪ えへへぇ〜」
「わっ。びっくりした」
ダァンッ。扉の前で待っていると、着替えを終えた由那が飛び出て抱きついてくる。
先程までの破壊力バツグン彼シャツを脱いで代わりに纏っていたのは、長袖の寝巻き。俺がよく部屋着として扱っている灰色のパーカーだ。
「この服もゆーしの匂い濃いよぉ。幸せぇ〜」
「はいはい。とりあえず部屋戻ろうな」
ぎゅぅぅ、と胴体を締め付けてくる由那と二人で部屋に戻り、再びベッドに腰掛ける。
とは言っても。今日は本当に何もする事を決めていなかったので中々に暇だ。まあ由那はそれでも喜んでくれるかもしれないが。
せっかくなら一緒に何かしたいな、とも思う。
「ん〜、ぐりぐりぐり〜♡」
「いてっ。由那ドリルがッ」
「マーキングしちゃうぞぉ〜!」
「ヤメロォォ」
頭をぐりぐりと押しつけて胸元に可愛いドリルをかましてくる彼女を宥めながら、そっと抱く。
なんて生産性のない、でも幸福な時間なのだろう。こうやってダラダラこの先の人生を過ごせたら最高だな。
「にへへぇ。私が帰ってからゆーしに寂しいって思ってもらえるようにするも〜ん。由那ちゃん中毒になっちゃえ〜!」
「これ以上中毒になったら壊れるっての〜。離れろぉ」
「とか言いながらぁ? ゆーしさんの熱い抱擁が見て取れますよぉ〜?」
「……まあ、そういう日もあるよな」
「えへへ、そういう日だけでいいよぉ〜♡」
イチャイチャ、イチャイチャイチャ。だらだらだらだらだら。
テレビもつけず、ただ適当にベッドの端でくっつきあっているだけ。そんな時間を数十分も過ごし、ようやく。「何かするか」という雰囲気になった。
正直何かと言っても取れる選択肢は少ないのだが。外に出るのは嫌だし、かといって漫画を読むというのもなんか一人一人が別の行動をしている感じがあって若干抵抗がある。
というわけで必然的に、俺たちは一度リビングへと降りて。テレビに繋いでいるゲーム機で遊ぶことにしたのだった。
「由那は普段ゲームとかするのか?」
「ううん、全然だよぉ。スマホにちょっと入れてるくらい」
「なら俺と大して変わらないか。結局これも買うだけ買ってほとんど放置なんだよなあ」
半年ほど前、本体とソフト二本で計四万円ほどを支払いこれを購入したのはいいものの。結局数ヶ月もすれば飽きてしまって、今では埃をかぶったただの置き物だ。
誰か家に呼べる友達でもいれば話は別だったかもしれないが……まあそういうことだ。
「わあ、Smitchだ!」
「ユリカーとスマファザあるけどどっちがいい?」
「ユリカー! ユリカーしたい!! ハンドルコントローラーのやつ使いたい!!」
「それは前の世代のやつだ……」
えぇー、と呟いている由那に新型の小さなスティック形状のコントローラーを渡し、本体を起動する。
リビングにはソファーがあるので、一度それに腰掛けてそのままプレイしようと思っていたのだが。何故か由那はやたらと床に座ってやりたいと言うので、仕方なく座布団を引いてあぐらをかき、後ろのソファーにもたれかかるといった体勢をとる。
すると、隣に置いていた座布団を無視して。由那のお尻が迫ってきた。
「特等席だぁ〜!」
「うおっ」
ぽそんっ、とお尻をつけたのは、俺の足と胴体の間。
あぐらを組んでいる隙間に身体をねじ込むと俺の両手を腰もとに回してきて、由那の身体を挟んだ形でコントローラーを持たされる。
「ゆーしにぎゅっ、してもらいながらゲームできるなんて最高だよぉ。重かったらごめんね?」
「ま、まあその……びっくりするくらい軽い、けど」
「やったぁ。じゃあこのままやろー!」
むに、むにゅっ。
踵あたりに柔らかい感触が走る。
胸元には由那の頭があって、常にいい匂いが。
(なんだこれ……最高か?)
我が彼女ながら男のツボをよく抑えている、その座り方に。俺は心の中でお手上げサインを出していた。