小動物のような悲鳴をあげた由那を、両手でしっかりと抱きしめる。
ふわりといい匂いが鼻腔をくすぐると、そこら中柔らかい身体に触れた感触が伝わってきて。
「可愛すぎだろ、マジで」
悶々とした気持ちが、胸の奥から溢れた。
頬を紅潮させ俺の腕の中で小さく収まる由那は、恥ずかしそうに上目遣いでこちらを見つめている。
「ゆ、ゆーし? その、いきなりぎゅってするのは、心臓に悪いよ……」
「嫌、だったか?」
「……好き」
きゅう。俺の背中に回された細い手に、そっと力が込められる。
部屋着の俺と、彼シャツ姿の由那。まるで同棲でもするカップルかのように抱きしめ合うその様は、とても人に見せられたものではない。
だが、それでいいのだ。ここには二人しかいないのだから。
「私のシャツ姿、そんなに良かったの?」
「ああ。突発的に抱きしめたくなるのを我慢できなくなるくらいには」
「え、えへへ……最高の褒め言葉だよ……」
好きと伝え合える関係になってから、俺たちは毎日お互いにそれを形容する言葉を相手に示して。示し続けているのに、まだ足りなくて。
由那は五年間、ずっと伝えきれなかった想いを。俺は突然として現れ始めた、胸の内にはとても収まりきらない衝動を。こうやって定期的に発散しないといけない身体になってしまった。
初恋とは毒だ。誰か偉い人が言っていた、そんな言葉を聞いたことがある。確か意味は、初めて芽生えたその感情に全てを奪われてしまう。虜にされて、胸の内を縛られてしまうというもの。
当然それは付き合い始めた俺たちには向けられない、初恋相手に片想い中の人とかに述べられたものだろうが。
俺は今でも、その毒に侵され続けている。
良質な毒。中毒性と幸福感を無数に孕んだ、初恋と言う名の猛毒だ。
だって、俺はもう由那がいないと生きてはいけない身体なのだから。これを中毒と呼ばずして何なのだろう。
「ゆーしのぎゅっ、あったかい。心臓、すっごい音鳴っちゃってる……」
「俺もだよ。はち切れそうなくらいうるさくて収まりそうにない。どうしてくれるんだよ」
「わ、私だってゆーしに何とかしてもらわなきゃいけないもん! このドキドキ、なんとかしてよぉ!!」
「……じゃあ、一旦落ち着くか?」
「落ち着く、って……もう。ゆーしえっちだよ? さっきあんなにしたのに」
「由那がしたくないならやめる」
「だから、それっ! ズルいってばぁ……」
ズルい。そうだな。確かに意地悪だったかもしれない。
由那が嫌がってなんて来ないことを分かっているのに、こんなことを言ってしまうのだから。
「ん……んっ」
背伸びをした由那の顔が近づく。唇同士が触れ合う。
今日何回目のキスだろう。付き合ってから……なんて、余計に分からないな。
毎日毎日こんな事をして。こんなに幸せで本当にいいのか、なんて思ってしまうほど充実した時間を過ごして。
告白して良かった。由那と恋人同士でいられる時間を一日でも長く取ることができて、本当に。
「ちゅ……っ」
ぷるぷるとしてハリがあり柔らかいそれは、ツンツンと幼げに優しい責めをして、離れる。
かあぁ、と先ほどより更に強く、真っ赤っかになってしまったその顔を見るに。おそらく……許容限界だ。
「これ以上は……ダメ。ゆーし成分取りすぎて、身体沸騰してきた……」
「俺も、由那成分取りすぎたかも。糖尿病になりそう」
「わ、私の成分は砂糖なの?」
「そりゃそうだろ。だって由那の唇……こんなに、甘いんだし」
「っ……」
お互い、そろそろおかしくなりそうになったところで、一度身体を離して。俺は由那にシャツを脱いでもらうため、部屋を出る。
────唇に、甘く熱い。そんな余韻を残しながら。