由那に制服のシャツを渡してから、俺は一度部屋の外へと出た。
今部屋の中では彼女がそれに着替え準備をしている。
もしサイズが大きかったり、逆に小さすぎたりしたら。その時は由那のお母さんに寸法合わせを任せるつもりだ。
「ゆーしー! 入ってきていいよー!!」
部屋の中から、声が響く。
それを合図に中へと戻ると。
────そこには、笑顔で長すぎる裾をフリフリと振る、世界一可愛い彼女さんの姿があった。
「どーお? 男の子はこういうの、好きって聞いたことあるよ〜♪」
俗に言う「彼シャツ」姿の由那は、だぼっとした俺のシャツで身を包んでいる。
手のひらは全て隠れて、肩幅は余りまくって。そして逆に胸元だけはボタンに締め付けられて軽く悲鳴を上げていた。
いくら中学生の時に着ていたものとはいえ男物。元々身体の線が非常に細く華奢な由那にとっては、それでも大きな代物だったらしい。
「そ、それ……ちょっと待て。可愛すぎる……」
「やったぁ〜♡ えへへ、男の子の服、やっぱり大きいね。だぼだぼになっちゃった」
「だ、だな。その、キツそうにしてるところもあるけど」
「ほえ? あー、そうなんだよねぇ。おっぱいだけはちょっとキツキツかも。にしし、これも男の子のだからかな?」
かあぁ、と顔に熱がこもってしまった俺は思わず目を逸らす。由那はそれを面白がって胸元を見せつけてくるが、俺にはあまりにも刺激が強すぎた。
パツパツになってしまった胸元は、ボタンで無理矢理止めているせいかボタンとボタンの間に少し隙間が出来てしまっている。そのせいでそこから……
「い、色々見えてる……」
ピンク色の下着と、真っ白な柔肌が。チラリとこちらを覗いていた。
「へっ? あ……」
どうやら本人も無自覚だったのだろう。俺が指摘して初めて胸元に手を当て、隠す。
由那はたまに俺を揶揄い面白がるが、根っこのところには恥ずかしがり屋な部分がある。自分が恥ずかしいことをしているのだと気づくと、顔を茹蛸のように真っ赤にして身を縮こまらせていた。
「こ、ここはサイズ、なんとかしなきゃ……ね」
「そう、だな。とりあえず脱ぐか?」
「…………それは、嫌かも」
「へ?」
てっきりすぐに脱ぐと言うと思っていたのだが。恥ずかしくて限界のくせに、由那は少し名残惜しそうにシャツの裾を顔に持ってくる。
「ゆ、ゆーしの匂いに包まれるの、幸せ……なんだもん。だからまだ、脱ぎたくない……」
「〜〜〜っっ!!!」
はい可愛い。クソ可愛い。
なんだよそれ。なんだよ、俺の匂いに包まれていたいって……。
ひくひく、と無意識に鼻を動かしながら服の裾を嗅ぎ、匂いを摂取するその姿を見て。ザワザワと胸の奥が騒がしくなっていく。
好きが、溢れる。可愛すぎて頭の中がピリピリと痺れて、抱きしめたくなる。
彼シャツなんて漫画で見た時はそんなにいいものなのかと思っていた。自分のシャツを着てくれているとはいえ、所詮はただのシャツ姿。実際には大したものではないのだろうな、と。
だが現実は違った。これはダメだ。自分の匂いに包まれて頬を緩ませる彼女なんて……可愛すぎて、ダメになる。
「……ごめん」
「へ!? ひにゃっ!!」
気づけばモールデートをして水着姿を見た、試着室の中のあの時のように。
彼女を、抱きしめてしまっていた。