文化祭まで、あと一ヶ月を切った。
それまでは文化祭のぶの字も無かった学校は、そこから少しずつ本番へと向かっていく。
何より変わったのは放課後だ。部活をしている奴らはいつも通りの日常を過ごしているが、俺や由那のような帰宅部はと言うと────
「じゃあ、装飾班のグループ分けはそんな感じでいこうかぁ。段ボールに布、テープとか諸々。いるものは無限にあると思うから話し合っていこうぜ」
在原さんを中心とした、俺、由那、寛司、中田さんなどなど。クラス総数の三分の一である計十人が集められて、個々の役割を話し合っていた。
食材などはまだ準備に余裕があるとして、シャツは男ならつい数ヶ月前まで着ていた学ランの下があるし、なんなら二枚持っているやつも多かったから女子にも充分に回る。
問題なのは装飾だ。どのような飾り付けをするのか。そのためにどんな塗料などが必要になってくるのか。お金のかかるものは学校への申請をしなければいけないこともあり、早急に決めることとなった。
そして、結論としては。一度各々が必要そうなものとやりたいことを考えて、明日意見をまとめようということだ。
つまり今日はとりあえず解散。在原さん達はぽちぽちと教室を出て帰り始める。
「じゃあ……私たちも帰ろっか」
「ん、そーだな」
夕日が見え始める空の下、手を繋いで帰路に着く。
「ね、ゆーし。私の衣装はゆーしの借りていい? 他の男の子から借りたもの私が着るの、嫌でしょ?」
「もちろんそのつもりだぞ。よく分かってるな」
「にへへ〜。彼女さんですからっ」
「っ……たく」
不意をついた一撃に赤面させられつつ、握る手を強める。
ずっと一緒にいてもこういう不意打ちに未だドキドキさせられてしまうのは、恥ずかしい反面。自分が彼女のことを好きなんだと実感できる瞬間でもあるから喜びがあった。
ちょっと生意気でムカつくけれど。やっぱり、死ぬほど可愛い。
「あ、そーだ! せっかくだから私ゆーしのお家行ってサイズ合わせしたい!!」
「え、今からか?」
「今から今から! そういえばゆーしの今のお家行ったことないし、お部屋見たいよー!!」
「俺の部屋、か……」
散らかっていたり、見られてはいけないものがあったりなんてことはないのだが。
俺の部屋なんか来てもあまり面白いものがないんだよな。せいぜい置いてあるのは俺の好きな漫画くらいで、由那を楽しませられる要素が……って、違う!
由那を! 彼女を家に呼べるんだぞ!? そんなこと気にしてる場合じゃない!!
「まあ今日は親二人とも仕事で帰るの遅くなるって言ってたしな。……来るか?」
「えへへ、やったぁ! 行くぅ〜!!」
制服の寸法合わせが名目なのは分かっている。
だが、これは────
「お家デートだねっ。彼氏さんのお家楽しみぃ〜」
「あ、改めて言われると……ちょっと恥ずいな」
お家デート。まさか俺の家に彼女を。それもあの由那を再び招き入れる日が来ようとは思ってもみなかった。
誰もいない家で、由那と二人きり。
(……あ、やばい。なんか緊張してきた)
ルンルンな様子で腕に巻きつき甘えてくる由那を宥めながら。
俺の心は、静かに高鳴っていた。