「えー……というわけで。多数決の結果、第一希望は喫茶店。第二希望はお化け屋敷。第三希望はフランクフルト屋さんになりましたぁ……」
パチパチパチッ。小さな拍手に包まれて、委員長が安心したように肩を撫で下ろす。湯原先生も飽きていたようで既に半寝だったが、この結果には概ね満足していたようだった。
在原さんが挙げた候補、「普通の喫茶店」。突き詰めていくと意外にクラスはその内容に盛り上がっていった。
主な仕事としてはカッターシャツなどを着て本物の喫茶店のウエイトレスさんのように働く接客、まだ具体的な内容は決まっていないが料理を作る厨房。そして、原材料の用意や皿洗いなどをする裏方。
メイドという特異的な要素を迫害した本当にただ普通の喫茶店というのはパンチこそ効いていなかったものの、安心感と定着感がある。それに属性を限定しないことで自由度も上がるので、話し合いはかなり白熱したのだ。
「えへへっ、私一度でいいからオシャレな喫茶店のウエイトレスさんしてみたかったんだぁ♪ ね、ゆーしも一緒にやろーね! ゆーしのカッコいい接客、見てみたいもん!!」
「……」
正直なところ、まだ「由那の可愛い姿を色んな人に見られてしまう」問題は解決していない。
していない、が……
(そんなこと言われたら、断りづらいな)
由那がここまで強く希望しているのだから。俺のワガママでやめさせるというのは流石に、な。
文化祭は学校の外から一般のお客さんも来ると言うし、変なことをされたりしないか少し不安だ。由那のウエイトレス姿なんて百パーセント可愛い格好、独占したいというのが本音だけれど。
────そんな彼女と一緒に働いてみたいというのも、また本音だった。
「分かったよ。けど、絶対シフト合わせるからな!」
「あ〜、もしかしてゆーし妬いてくれてる? にひひっ、私愛されてるなぁ♡」
「うるせぇ。当たり前だろ……彼氏、なんだから」
「ん゛っ。えへ、えへへっ……」
ちなみにもう一組の二人はと言うと。
「わ、私は裏方でいいからね」
「有美が裏方なら俺もそうしようかな。接客する人しない人関係なくシャツは着るみたいだし。有美のその格好さえ見れれば俺は満足だよ」
「う、うるさいっ。ほんとバカ……」
こんな感じで。反対意見を出していた中田さんもただの喫茶店となるとあまり抵抗はないようで、裏方ならと渋々OKを出した。
というか寛司はちゃっかり人前に彼女を出したくないと言う願いまで叶えていて、相変わらず色々と上手くやる男だなと改めて思った。
「うーん、私は接客だな。由那ちゃんの撮影義む……ん゛んっ。お手伝いしたいからな。一緒に頑張ろうかバカップル」
「やったぁ。薫ちゃんと一緒だ〜!」
「おい待て。今なんて言った」
まあなんやかんやとあったが。
とりあえずこうして、俺達の出し物は喫茶店に決定されたのだった。
後日先生から正式にその希望が通ったことを伝えられると、俺達は改めて。
文化祭への準備に乗り出したのである。