「えー……はい。文化祭の出し物決めます。今日中です。決して忘れてたわけではないから。私も今日知らされたから。じゃあはい。いいんちょ出てきて」
「……なんだ?」
ポリポリ、と頭を掻きながらやる気なさそうにそう告げたのは、我らが担任湯原先生。
相変わらず。本当に相変わらず、真面目そうな見た目のくせにいい加減だ。絶対締切寸前になって思い出したんだろこの人。
というか文化祭て。校外学習のときもそうだったけどマジでいきなりだな。行事なんて当分ないのだとばかり思っていたが。
「え、ええええっと、それじゃあその……やりたい行事がある人は挙手をお願いしましゅっ!」
朝のホームルームから始まり、湯原先生担当の古典がある一限まで潰して。こうして出し物決めが突然始まった。
全員の前に一人で立たされてガクガクと震えているあの委員長も可哀想だ。名前はええっと……蘭原さん、だったか?
「あー、あとな。お前らうるさくならなかったら別にいいから勝手に席も移動して構わんぞぉ。色々話し合った方が意見も出るだろ」
適当だな、ほんと。
だがこの人のやる気のなさに反比例して、クラスメイト達はすぐに座席を移動させて友達同士で集まり会話を始める。そしてさも当然かのようにそれに呼応し俺と由那の元へ集まってきたのは、いつもの三人だ。
「えへへ、文化祭だってぇ。何するぅ〜?」
「というかいつなんだ? 本番は」
「今生徒手帳見てみたけどちょうどあと一ヶ月後みたいだね。だから今日が締切なんじゃないかな?」
「本当はもっと余裕あったろうにな。あの人本当に教師か……?」
まあまあ、と苦笑いを浮かべる寛司と、その後ろで中田さんに抱きつきながらテンションの高い在原さん。そして隣にいる彼女もまた、満面の笑みでテンション爆上げのご様子だ。
文化祭……中学の時のは全く大したことなかったが、高校になると規模は大きくなるものなのだろうか。アニメなんかでは学校の外からも人が来て食べ物を売るクラスや縁日を行うクラス、あとは体育館の劇なんかが思い浮かぶが。
何をやりたいか、と言われると正直ピンとこない。
「ゆーしと、みんなとやるならきっとなんでも楽しいよ!! ね、薫ちゃん!!」
「あったりまえヨォ! 文化祭っつったら体育祭と並ぶ高校の二大イベントだ! たこ焼きにわたあめ、フランクフルトに焼きそば!! うまいもんがたらふく食えるぞ!!」
「食い意地張ってるわね、相変わらず……」
結局俺たちはこれといって「あれがやりたい!」みたいなやつはそう急に浮かぶことがなく。ぽちぽちと出てきた黒板に書かれている候補を眺めることにした。
お化け屋敷、たこ焼き、タピオカ。男装女装喫茶……はふざけすぎな気もするが。
全会一致で、という意見は出てこない中。クラス中から注目を集めることとなる意見が、男子の中からポロりと零される。
「はい。じゃあさ、メイド喫茶ってのはどうだ?」
「「「「「メイド!?!?」」」」」
「「「「「最っ低」」」」」
男子からは称賛を。女子からは侮蔑を。
それぞれ五分五分で受けたその意見は。やがて、クラスを巻き込む渦となって成長していくこととなる。