ピンポーン。チャイムが鳴る。
朝八時。いつもと同じように鳴るチャイムと共に制服の着用を終えて、扉を開けた。
「えへへ、おはよっ」
「おはよう。相変わらず時間ぴったりだな」
「くっふふふ! 何時に出たらこの時間に着くか、もう何度も通ううちに分かっちゃったから!」
俺と同じように制服に身を包んだ彼女のお出迎えで朝の疲れを飛ばすと。家の鍵を閉めて、鞄を地面に置く。
それはいつもと同じように、恒例の儀式をするため。人が来ていないのを確認し、がばっと腕を広げる由那に近づいた。
「今日からはぎゅっだけじゃないからね? ちゃんと、ね?」
「……おう」
これまでは、「充電」と称したハグをするだけだった。
でも俺たちの関係は、今や彼氏と彼女という恋人同士に変わって。必然的にこの朝のルーティーンもバージョンアップしたのである。
「ん…………ちゅっ」
ふわりと白い髪が揺れると共に、唇と唇が合わさる。
お互いの身体を抱きしめ合いながら行う、キス。それは大人のするような深いものではなく、軽い唇同士の接触のみのものだけれど。
じわりと身体に熱が篭ると、幸せになる。由那との関係性が変わったことを再確認して、彼女を俺のものにできたと。そう思うことができるこの時間は、まさに至福だ。
昨日はお互い旅行の疲れでぐっすりで、会うことはできなかったけれど。今日からはまた学校が始まって毎日顔を合わせることになる。
つまり必然的に、毎日キスできる。
「好きだ。やっぱり俺……由那のこと、死ぬほど好きだ」
「えへへぇ、私もっ。ゆーしのこと世界で一番、大大大好きだよっ♡」
唇を離して言葉を交わしてから、もう一度唇を合わせて。二回のそれの後に頭をたっぷり撫でて抱擁する力を強める。
そうして存分にイチャイチャすること数分。ようやく充電は満タンに溜まり、右手は鞄。左手は由那と全部の指を絡めて歩き始める。
だけど結局、手繋だけじゃ満足できなくなった由那はすぐに俺の腕にからみついてきて。気づけばいつものようなぴっとり状態で歩くこととなっていた。
中々に歩きづらいが、この不便さも含めて。どこか嬉しい。
「ね、ねっ! 今日のお弁当気合い入れたんだぁ。ゆーしの大好きな唐揚げ入れたから、あーんして食べさせてあげるね?」
「お、おう。まああーんはいつもされてる気がするけど」
「いつもとは違うの! 気合のこもったあーんだから!!」
「さいですか。まあ楽しみにしてる。由那のお弁当は一流品だからな」
「にっへへ。褒めても私からの愛情しか返ってこないよ〜?」
「なんだよそれ。貰えたらめちゃくちゃ嬉しいものじゃねえか」
「本当? えへへ、好きぃ〜」
笑顔でご満悦な彼女と、校門をくぐる。
なんだろう。由那が幼なじみではなく彼女になったというのはなんというか……凄く、しっくりくる。周りから見れば今も昔も、映る様子に大した変化はないのだろうか。
少なくとも俺は、いつもより由那からの密着度が上がった気がするが。……って、前からべったりだったな。コイツは。
「なあ由那」
「何〜?」
「頭、また撫でてもいいか?」
「勿論だよぉ。私の身体は全部ゆーしのものだもんっ。いっぱいなでなでして?」
サラサラの髪を、そっと手のひらで撫でて。由那の喉がゴロゴロと鳴って可愛く甘えてくるその様子をたっぷり堪能しながら。教室までの廊下を歩いた。
────今日は周りからの視線がやけに険しかった気がするが。気にしないでおこう。