「……すぅ。すぅっ」
「ん、みゅ。かんじぃ……」
「寝ちゃったか」
「有美も、疲れてたのかな。寝てる時は素直に甘えてくれるんだよね」
ガタン、ゴトン。
すっかり暗くなってしまった空の下、俺達五人を乗せた電車は走る。
中田さんも、由那も。疲れ切ったようで、電池切れを起こしてすやすやと眠っていた。
中田さんは、その小さな頭を寛司の肩に寄りかからせて。由那は、俺の腕に巻きついて。二人とも、自分の彼氏に身を任せてよく寝ている。
「くっふふ、神沢君も隅には置けないなぁ。なんやかんやでもっと時間がかかるもんだとばかり思ってたのに」
「は、はは。ぶっちゃけ俺もまだ信じられないっていうか。……幸せすぎて、実感がない」
「懐かしいな。俺も有美と付き合った日、そんな感じだった気がするよ」
二人にからかい混じりの祝福を受けながら、小さな寝息を立てる由那の頭をそっと撫でる。
綺麗な白い髪を手のひらでゆっくりと摩ってやると、「んみゃぅ……」と可愛く猫撫で声を上げるもんだから。つい、クスりと笑ってしまった。
(俺、本当にコイツの彼氏に、なれたんだよな……)
随分と待たせてしまったらしい。再開したあの日に告白されてもOKしていた、というのを聞いた時は流石にギョッとした。
これだけ好きな相手のことなのに。俺は、由那の気持ちを何も理解してあげることができていなかった。
由那はこの五年間……いいや、もっと前から。俺のことを好きでいてくれていた。こんなに可愛い子が、ずっと俺のことを。
俺は、恵まれている。こんなに可愛い幼なじみを……いいや、彼女を持つことができて。本当に誇らしくて、幸福だ。
「本当、人騒がせだったけど。まあ結果オーライで何よりかな。正直俺達外野から見れば勝ち戦すぎて見応えがなかったけどね」
「そ〜だなぁ。神沢君の告白を由那ちゃんが受け入れることなんて目に見えて分かってたし。けど……な?」
「うん。キスは良かった。恋愛映画を見てる気分だったよ」
「……はっ!? オイ、ちょっと待てよ!! まさか見られて────っ!?」
「ふっふっふ。私達がそんな美味しい場面を見逃すとでも思っていたのかい? 有美から諸々吐き出させた後速攻で向かったさ」
「うわ、恥っずい……」
ただでさえ、自分で思い返すだけでも身体が熱くなるというのに。 まさかあの告白を全て見られてしまっていたなんて。それも三人全員に。どうりでさっきからやたらとニヤニヤしていたわけだ。
「は〜〜〜ぁ。たは〜っ! 私も甘酸っぱいラブコメしてえなぁ!! 青春してえよぉ!!」
「在原さんならできるんじゃない? 黙ってれば美少女なんだし」
「お? オイオイ。オイオイオイ。黙ってればって言ったか? それは何か? 喋ったら残念美人になると??」
「まあそれはその通りな気がするけど……」
「誰が心はおっさんじゃコラァァ!!!」
「ん……薫、うるしゃぃ……」
「有美まで!?!?」
自覚ありなのか。珍しく在原さんが落ち込むところを見て、思わず笑みが漏れる。
やはりこのメンバーでいるのは、凄く心地がいい。本当に在原さんと中田さんが由那の友達で……そして、寛司が俺の友達で。本当によかった。
願わくば。ずっとこのまま、みんなで一緒にいられるといいな。
「ゆぅ、しぃ……えへ、へっ。およめさんにしてぇ……♡」
「……ったく。どんな夢見てんだか」
「ふふっ、ゆーしのえっちぃ。でも、しゅきぃ……」
「おい待て、本当にどんな夢見てるんだ!?」
こうして、俺達五人の日帰り旅行は幕を閉じる。
変わらない友人との繋がり。そして、恋焦がれた女の子との関係の変化。
様々なイベントを乗り越えて、また新しい一日が始まる。
────俺達の日常はまだまだ、続いていきそうだ。