翌日、昼食後にエシュニーとモリーとトーリスの三人は、郵便局へ行った。神殿からさほど距離もなく、町の安全地帯にあるので、揃って歩いて向かう。
町の中核を成す神殿は、どこへ行くにも立地よし、なのだ。
相変わらずトーリスは、物珍しそうに辺りを観察していた。
途中で旅行者や信者から、エシュニーが挨拶責めになったり。
トーリスがファンクラブの面々に囲まれることはあったものの、無事郵便局へたどり着く。
そして手紙をポストへ投函し終え、後は野となれ山となれ、だ。
「いつ、届くのだろうか」
赤いポストを、トーリスがじっと凝視する。どことなくワクワクした様子に、エシュニーとモリーは笑った。
「首都まで遠いですから。日数はかかるでしょうね」
「そうか」
「お返事が届くといいですね」
そう投げかけると、ポストを見つめたまま、トーリスはこくりとうなずく。キュッと結ばれた口が、彼の期待を表していた。
「ああ、可愛いですぅ……ずっと見ていたい……」
そんな彼の横顔を、モリーが
相変わらず、よだれが漏れ出ていた。彼女は一見すると、素朴で愛らしい容姿のため、その落差がえげつない。
道行く人々が、モリーを見てギョッとなる。慌てて視線をそらし、大慌てで逃げていく人もいた。それも複数。
(そりゃそうだろうな。どう見ても、危ない人だもん)
げんなり、とエシュニーはモリーのあごを伝う、大河の如きよだれを指さす。
「モリー……その顔はどうか、別館の中だけにお願いします」
「ハッ! 申し訳ありません! つい
我に返ったモリーが、真っ白なエプロンでよだれを拭う。煩悩の象徴であるシミが、エプロンの中央にでかでかと出来上がった。
帰る道すがら、トーリスはエシュニーの顔をのぞきこむ。
「エシュニー」
「どうしました?」
歩きながら、彼へ視線を返した。
「エシュニーは誰に書いたんだ?」
「両親宛てですよ」
「何を書いたんだ?」
質問攻めである。おまけに食い気味だ。
そんなに気になるのだろうか、と笑いつつ、彼女は快く答える。
「最近のことですよ。あ、もちろんトーリスのことも書きましたよ」
エシュニーは何気なく答えたのだが。
「本当か?」
赤い瞳をキラキラさせて、トーリスは立ち止まり、エシュニーの両肩を握った。
ついでに、彼女をカクカクと揺さぶった。
「な、なんですか……? 嬉しい、のですか?」
エシュニーの問いに、カクカク揺さぶりが止まる。
トーリスの視線が下がった。なぜか、への字口のしかめっ面になる。
「分からない」
「はいっ?」
勢いよく、エシュニーは首をひねった。
(こいつは何を言っているんだ?)
と、その目が疑問符を投げかける。
「分からないが、エシュニーが僕のことを書いたと聞いたら」
「聞いたら?」
「ここが、熱い」
彼のその言葉に、むしろエシュニーの全身が、真っ赤に染まった。
「なっ……え、あ、あなたは、何を言っているのですかっ」
「僕はいけないことを言った?」
「そういうわけ、ではない、ですが……」
目を白黒させる彼女を見て、トーリスは仏頂面で首をひねった。
「エシュニー、顔が赤い。熱がある?」
「違いますっ。これは、その……もう、知らないっ」
ごにょごにょ言いながら、エシュニーは両手で頬を押さえた。
そしてうつむく彼女を、モリーは微笑ましげに見つめていた。
ただ、その口元からはまた、よだれが流れている。
「ああ……なんという愛らしいやりとりでしょうか……お嬢様、実に素晴らしくウブな反応ですぅ! グッジョブでございますぅ!」
「モリー。よだれが……よだれが、
彼女を見つめ返すエシュニーの目は、どことなく遠くを見ているようだ。
「本当だ。滝のようだ」
トーリスもよだれの水量に、目を丸くしていた。