☆3☆
夏の体育でプールの授業があって、なんだか耳がぶあーん、と音を響かせていた。
「耳に水が入ったみたい」
「頭を傾けてピョンピョン跳んだら出るよ」
友だちに言われてやってみたけれど、耳の中の水は出なかった。
熱くなったコンクリートの段差に耳をくっつけてじっとしていたら、ふいに水が流れ出た。不思議だった。
「一応、綿棒で耳かきしておく?」
更衣室で友だちが持っていた綿棒をくれた。濡れた耳垢が白い綿棒にくっついてきた。
「少し湿っぽい」
「私はお風呂上がりとかに綿棒使うよ。」
「ふうん」
「耳が乾燥気味の人は普通の竹製の耳かきを使うけど、耳の中がウエットな人は綿棒かな・・・」
「そういう人もいるんだ・・・」
「綿棒も良いよ」
「うん。ありがとう」
私はその日、母にねだって買い物の時に綿棒を買ってもらうことにした。
「明美。黒い綿棒もあるよ」
「えっ!本当だ」
びっくりした。清潔で、取れた耳垢がよく見えるらしい。
「黒い方を買って!」
「はいはい」
母がクスクス笑いながら買い物かごにお徳用の黒い綿棒を入れた。
飽きっぽい私はどのくらいその綿棒を使っただろうか?そう頻繁に耳が汚れる訳じゃないし、毎日の雑事に忙しかった。