第九章☆野営
「……ったく、どいつもこいつも言うこときかないガキばっかり」
ぶつくさ呟くルナンは、それでもジープの後部の荷物の中にユウたちを隠して中央管理局のゲートをくぐった。
顔パスらしく、簡単に地下への巨大なエレベータにジープごと乗り込み、民間人立ち入り禁止区域を走り抜けた。
「ここどこ?どこを走ってるの?」
メイが巨大な通路を通る時、オレンジ色の灯りを見て思わず身を乗り出した。
「まだ出てくるな!今見つかったら色々面倒なんだよ」
ルナンが前を向いたまま、怒鳴った。
「おじさん。そう興奮するなって」
ドミニクが半分笑いながら言った。
「俺はおじさんじゃない。30歳になったばっかりだ」
「やっぱりおじさんじゃないか。もう30歳」
「まだ30歳だ」
まだなにか言いたそうなドミニクの口を片手でふさいで、ユウがしぃーっと言った。
ユウが来たことがない区域に行き、小型飛行船にジープは格納された。
「ここに隠れてろよ」
そう言うと、ルナンは小型飛行船の操縦席にいる誰かと会話しながら平然と出発した。
「空を飛んでる」
メイが言った。
ユウたちを乗せた小型飛行船は、専用の出入口からノアザーク号の外部に出た。
遥か下方に緑の木々が林立していた。
ノアザーク号を遠くから見ると、巨大な球がそびえているように見えた。
「怖くない?」
と、ユウが聞くと、
「ちょっとだけね」
とメイは答えて、
「ぜんぜん」
とドミニクは言った。
しばらく飛んだ後、小型飛行船は地上に着陸して、ルナンが運転するジープは赤茶けた土の上を走った。
小型飛行船はノアザーク号の方へ引き返して飛んでいった。
「もう出てきていいぞ」
ルナンの声に、荷物に紛れていた三人が出てきた。
「どこへ行くの?」
「調査隊が連絡を絶った地点だ」
「……俺たち夢でも見てるのかな?」
「いいや」
ユウはドミニクとメイを巻き込んだことに罪悪感を感じていた。
しかし、当のドミニクたちはユウに負けないくらいの好奇心で一杯で、
「連れてってくれなきゃ、みんなに言いふらす」
と言ってついてきた。
ジープはがたがた揺れながら走った。
「ブレーン・マシーンって、いつも頭痛がして嫌いだったのよね……」
メイが言った。
「話全部聞いてたな?」
ルナンがしかめて言った。
「自分たちだけで秘密ってのもよくないと思うんだけど」
ドミニクが真っ当なことを言った。
辺りが薄暗くなってきた。
夕陽が沈む光景をみんなが無言で見つめていた。
岩の近くにジープをとめて、ルナンは車から降りると、持ってきた荷物の中からがちゃがちゃ音を立てて色々取り出していった。
「今夜はここに野宿するぞ」
「手伝います」
メイが夕食の準備をするルナンに言った。
「ドミニク、何してる?」
ユウが尋ねると、ドミニクは携帯に附属した記録装置を起動してみんなの様子を撮影していた。
固形燃料を燃やして、小さな鍋で缶詰め類を使った料理が出来た。
ミネラルウォーターの水をがぶ飲みするドミニクにルナンが、
「水は貴重だからこころしてくれ」
と注意した。
満天の星空だった。
「星が降ってきそう」
とメイが空を仰いで言った。
「星座が……わからんな」
ルナンがそう言って首をかしげた。
「この惑星は何ていう星なの?」
「地球」
「?」
「俺たち人間が生まれた星だ」
「……ちょっと待って!」
ユウの声にみんなが注目した。
「ぼくは、地球が破壊されるところを見た」
「……お前、あの時の子どもか」
ルナンがユウをしげしげと見た。
「……地上で核戦争が起きた。10年前のことだ」
「放射能の危険はないの?」
「ノアザーク号が宇宙空間を10年航行していた間に地上は100年経過している。ウラシマ効果だ」
「じゃあ、半減期でだいぶ放射性物質が減ってるのか」
それを聞いて、安全らしいと知り、他の二人は安心したようだった。
「でも、どうして核戦争が起きたの?」
メイの問いにルナンはかぶりをふった。
「何がきっかけだったのかは今となってはわからない」
「ひどい……」
メイが涙を流した。
ドミニクがメイの背中をさすってなぐさめた。
「地上にいた人たちはどうなったの?」
「それを調べるために派遣された調査隊が連絡を絶ったんだ」
「……」
みんなやるせなかった。
三人が寝息をたて始めた頃、ルナンは奇妙な発見をした。
沈んで行く月と逆の空にもうひとつの月がのぼってきたのだ。
「これは……本当に地球に戻ったのじゃないのか?それとも100年の間に隕石が一個、遠心力と重力の釣り合う高さで第二の月にでもなったっていうのか?」
確信が持てないまま、ルナンは他の三人にはこのことは告げずにいようと思った。