第十章☆食べるということ
「俺、もう少し食べたいよ」
ドミニクが言った。
「二人分を四人で分けてるんだ。他の食糧は調査隊に運ぶ物資だからなるべく手をつけたくないし、ちゃんと動き回れるエネルギーは十分取れるはずの分量だぞ」
ルナンが真面目に言い聞かせた。
「ぼくのをやるよ」
ユウが自分の食べ物から半分分けてドミニクにやった。
「お前は足りるのか?小鳥みたいに小食だなぁ」
ルナンが呆れた声をあげた。
「食べないと死んじゃうわよ」
メイがユウを心配して言った。
「昔の探検家が探検に必要なのはうまい食事だ、って言ってる。どんなにつらくてもうまい食事があれば、一日の疲れが癒される、って」
「……そうだな、もうちょっと食糧から拝借するか」
ルナンが荷物の方に立ち上がって歩いて行ったのを見て、ドミニクがメイに親指を立てて見せた。
「あの子は、いろいろ問題抱えていそうだな」
とルナンはユウのことを考えていた。
「だが、他の二人はほっといていいな」
そう呟いて、ふっと笑った。
ジープは山の麓の森林地帯のはずれに止まった。
「この辺りで調査隊の消息がわからなくなった」
ルナンがそう言って、電子地図を起動した。
「?おかしいな」
「何が?」
内蔵されたコンパスがまともに働いていなかった。ルナンは紙に地形図をプリントアウトして、真鍮製のコンパスを引っ張り出してきた。
「なんだ、これ」
コンパスの針がぐるぐる回った。
ユウたち三人もコンパスをじっと見た。
「この辺り一帯磁気異常になってる」
はっとして、ルナンは通信機をオンにした。
ノイズだらけで、ノアザーク号と通信できなかった。
「調査隊が消息を絶った原因はこれか!」
「……どうするの?」
「下手に動き回ると、俺たちも遭難するかもしれん」
ルナンはジープにみんなを乗せて、道を引き返した。
「通信機の使い方教えるから、誰か一人助手席に来てくれ」
「ぼくが行くよ」
ユウが後ろから助手席に移ってきた。
しばらく戻ると、通信機が正常に動き出した。
ルナンはジープをとめて、事情を説明した。ノアザーク号の交換手は事態を把握すると、ルナンにノアザーク号へ戻るように指示した。
「……ところで、一緒にいるのは誰なんですか?」
「すまん。戻ってから報告する」
そう言って通信を切った。
「見て!あんなに一杯の鳥が飛んでる!」
メイが空を指差した。
「……」
ハンドルを握って、ルナンはしばらく考えていたが、鳥がたかっている場所に向かった。
「おーい!」
数人の人影があった。
「調査隊の人か?」
「そうだ!……助かった」
よれよれになった男がジープに駆け寄ってきた。
「車が横転して、積み荷が散らばったんだ。食糧を動物にあらかた取られてしまったんだが、こっちが食べられないように隠れてるので精一杯で、どうしようもなかったんだ」
「動物?危険なのがいるのか?」
「コヨーテとかいた」
「今はどこにいる?」
「銃で殺した。死骸に鳥が集まってきてついばんでいる」
「どうりで。でもそのおかげで会えたんだ」
「そうだな」
通信機で現在地をノアザーク号に知らせた。すぐに応援がくるらしい。ひとまず、みんながほっとした。