第八章☆ジープに乗って
「やあ。初めまして。中央管理局から派遣されて来ました。お宅の地下に眠ってる化石燃料使用車を撤収するようにとの政府からの指示です」
ルナンは真面目な顔でそう言った。
ユウはちょっと目を細めて、頭を巡らせた。
「初めまして。どうぞお上がりください」
ルナンはユウのあとに続いて、家の中の地下室へ降りて行った。
メイとドミニクは顔を合わせて首をかしげた。
「……燃料とか液体は全部抜いてあるし、バッテリーも外してあります」
「いやあ、その方がまだ使える!よく手入れしてあるし、いいですね」
ルナンは大型のジープ車体を調べながら調子よくしゃべる。
セールスマンかなんかか、あんたは?とユウは内心ツッコミを入れていたが、しばらく他人行儀に会話が進んだ。
「そういえば、Ω対策のことだけど……」
ユウがそう言うと、ルナンは片方の眉をぴくりと動かした。
「端末で調べようとすると、どうしてもロックがかかるんですが、何故ですか?」
「……記憶処理できなかったのか?」
ルナンは苦笑した。
ユウは肩をすくめた。
「芋づる式に記憶を手繰ると、頭痛がして、その頭痛さえ乗り越えれば全部思い出せるようになっちゃった」
「おいおい」
それじゃ仕方ないな、とルナンは口調までフランクになった。
「子どもの頃みんなが使用しているブレーン・マシーンと理屈は同じなんだよ」
「あれは、脳が考えているときに流れる微弱な電子パルスに干渉して大量の情報を記憶させる装置でしょう?」
「Ω対策の電波も電子パルスに干渉するんだ」
「記憶を消すというより、邪魔する頭痛が起きるようになってるの?」
「まあ、そんなところだ」
考えさせないように働きかけるんだ、と言いながら、ルナンはメイとドミニクに聞かれていないか警戒しているようだった。
「惑星の探索に車を使うの?」
ひゅー、とルナンは口笛を吹いた。
「どこまでばれてるんだ?」
「さあね」
「まあ、それなら話が早い。この車譲ってくれ」
「条件がひとつ」
「なんだ?」
「ぼくも連れてってほしい」
「……」
ルナンは頭を抱え込んだ。
「ばれたら俺、減給くらいで済むかな?」
「ぼくが脅したって言えばいいよ」
「……はははは。参った」
ルナンは朗らかに笑った。
「とりあえず、お友だちには帰ってもらえ。俺はちょっとトイレを借りていいか?」
「うん」
二人は地下室から一階に上がった。
ルナンがトイレ入っている間、ユウは家の中をメイとドミニクの姿を探して回ったが、みつからなかった。
「どこ行ったんだ?」
「おい、ユウ。実はかなり緊急の事態でな」
「なにかあったの?」
「惑星の探索に出た調査隊のひとつが連絡を絶った」
「それを探しに行くの?」
「そうだ」
ジープに燃料などを補給して、ちゃんと走るようにセッティングすると、地下室からメイン・ロードに車を出す装置を起動した。
慣れた様子で車を運転するルナンをユウは感心して見ていた。
「友達は帰ったのか?」
ルナンが聞くと、ジープの後ろからドミニクがひょいと顔を覗かせた。
「帰ってませーん」
ルナンは思わずハンドルを切り損なうところだった。