第六章☆トートーヤ
ユウはしばらくそのまま気持ちが落ち着くまでそこに座っていた。
ごおおおおおう。
はるか下方から風が吹き上げてくる。
腹這いになって、外壁を確認すると、十二方向に向かって梯子状に手すりが均一に続いていた。
これを下に伝っていけば、降りられるだろう。だがかなりの高さだ。途中で手を離したら真っ逆さまに落ちること請け合いだ。ユウは中に戻ると、幾重にもある扉の途中の気密室横にある宇宙服がある辺りで使えそうなものを物色した。
腰のベルトに金具を引っ掛けて、野太いロープの先についたもう一つの金具を手すりに引っ掛けていくことにした。
怖いのでほんのわずかづつ降り始めたが、だんだん頭に血がのぼってこのスリルを楽しみ始めた。
だんだん大胆になり、やがて地上に降り立った。
「土だ……」
白いズック靴で踏みしめる。
ノアザーク号内では滅多にお目にかかれない。
茶色い土がぼこぼこになっていた。少し離れて巨木が相当な数、なぎ倒されていた。
森林地帯に着陸したのだろうか?あまりに巨大すぎて感覚が麻痺してしまう。
トートーヤー
「何の音だろう?」
木々を越えてわけ行って行くと、緑の下草が生えた場所に何かいた。
トートーヤー
鳥だ。声がトートーヤー。
生きている鳥。なんて綺麗なんだろう?
「トートーヤ」
ユウが呼びかけるとその鳥はこっちをみて、まばたきしながら首をかしげた。
「トートーヤ」
がさがさ。バタバタバタ。
「あーあ、飛んでっちゃった」
鳥を見送って、ユウは草の上に寝転がった。いい匂いがした。土と草木の湿った匂い。
トートーヤ、トートーヤ。あの鳥の名前はトートーヤ。
ユウはくすくす笑った。
☆
夕暮れの空の色はなんとも言えない色だった。
ノアザーク号内に戻って、名残惜しい気持ちでユウは西方研究所にやっとこさ帰った。
どこへ行ったのか探し回っていた職員に発見された時は熱発して気を失っていた。