時は流れ、二本足で歩くのもおぼつかなかった
「あにうえ!
一直線にこちらへ向かう足音をふり返れば、ぽふり、と幼子が
人の子でいえば、まだ五歳ほどだ。
黒皇はすらりとした長身をかがめるように、片ひざをつき、おのれの腰ほどの背丈しかない弟と目線を合わせる。
「そうだね。
「いきましょう、いきましょう!
「じゃあ、いっしょに行こうか」
「あー! 皇兄上がまた
これみよがしに張り上げられた声の主は、残る八人のうち、だれなのか。
黒皇にとって、弟の声を聞き分けることなど、造作もないことだった。
「いいところに来たね。ちょうど
「まーた上手いこと言うんだから。はいはい、そう言うと思ってご用意しときましたよ、お食事!」
「さすが私の弟だ」
七番目の弟、黒嵐。
そのため黒慧にかまいすぎると、拗ねてしまう。黒皇が『ごめんね』の意味を込めて名前を呼べば、黒嵐も一変して、後ろ手に提げていた手籠を笑顔でかかげてみせた。
なかには、みずみずしい果物が詰まっている。
「
「ばか言うなちび! 重いんだぞこれ!」
「もてますぅ~!」
「あーわかったわかった! それじゃ半分こな。ほら、果物籠さんとおててつなぎな?」
「はいっ!」
黄金の瞳を潤ませる黒慧に、黒嵐も根負けして、ふたつある持ち手の片方を明けわたす。
結局のところ、黒嵐も弟に弱いのだ。
籠を落として果物をぶちまけてしまうより、黒慧が転んで膝小僧を擦りむいたときのほうが、発狂するような子だから。
「んぅ……」
そうこうしていると、なぜか首をかしげている黒慧が、黒皇の目に入る。黒慧はちいさな左の手のひらを、にぎったりひらいたりしている。
「こっちの手があまってしまったね。私とつなごうか」
「ほんとうですか!」
右手で果物籠、左手で黒皇と『おててをつないだ』黒慧は、ご機嫌だった。
「あーにーうーえー?」
「あとで、黒嵐もつないであげるよ」
「いや、べつにいいですし! おれもそこまでこどもじゃないですしっ!」
「さっさと行きましょう!」と顔をそむけた黒嵐には悪いが、黒皇は思わず笑みがもれてしまう。
(忘れずに、頭をなでてあげないと)
素直でない弟になんと言われようと、それだけは胸に誓った黒皇だった。