「悪かったって! このとおり!」
両手を合わせて直角に腰を折る
「私は
「はっ? 心当たりがないとは言わせねぇからな! こないだの恋愛相談からだぞ、おまえがとんでもないことを言いだ──」
「あちらで詳しいお話をうかがいましょうか」
「まてまてまて、そんな真顔で近寄んなって、怖い怖い怖い!」
こどもに聞かせられる話と、そうでない話の区別もつかないのだろうか、この仙人は。
と半ば腹立たしく思うも、黒皇はすぐに思い直した。
晴風は、黒皇が考えるよりずっと人の機微に敏い。
それは、ほかでもない黒皇自身が知っていることだ。
「いいか
「はい!」
「そこにいる金王母さまに届けるんだ!」
「わかりました!」
「おしょくじをおもちしました! どうぞ!」
「まぁ、ありがとう」
そうして卓の上に置かれた皿から、金王母は葡萄をひと粒とって、「上手にできたご褒美です」と黒慧へ差し出す。
ほほ笑ましげな金王母。瞳を輝かせる黒慧。それを見守る黒嵐。
紅白の蓮池をはさみ、いつもと変わらぬ光景を横目で見やった黒皇は、神妙な面持ちで正面の晴風へと向き直る。
「それで……『お話』とは?」
黒皇の知る晴風とは、実に聡明な男だ。
こうして巧みに、黒皇を連れ出すほどに。
「なんつーかな。最近、いやぁな予感がしてよ」
なんとも漠然とした発言ではあるが、晴風の『勘』はいつもするどい。
黒皇は無言で見つめ返し、言葉の続きをうながす。
「一応、占いをしてみた。そしたらどうも、火気と水気の流れが妙なんでね」
「火気……もしや、私たち兄弟のことですか?」
そのうち太陽をつかさどる黒皇ら兄弟は、この金玲山において、もっとも強い
「
「では
「念のため、な」
霊水で満たされたかの池は、唯一愛した女性とのつながりの地。さびしくないと言えば、うそになる。
表情を翳らせた黒皇へ、晴風はこころを鬼にして告げる。
「それと、具体的な占い結果も出てな。『千百十九』の数に『凶事あり』とのことだ」
「千百十九、なんて中途半端な……」
と、そこではたと思考停止する黒皇。
そうだ、たしかに中途半端な数だ。
まるで
その
「……失礼いたします。小慧たちをよろしくお願いします」
口早に告げるなり、黒皇は漆黒の衣をひるがえした。