ひらりと、艷やかな黒の羽が舞う。
開放した格子窓から入り込んだ一羽の烏は、そよ風のやむころに、精悍な青年へと姿を変える。
片ひざをつき頭を上げた
「おはよう黒皇! いいところに来たね! 心配はいらないよ。きのうはお客さんのおかげで、ぬくぬくだったからね」
「お客さま、ですか」
「そうそう! だれだか訊きたい? 訊きたいよね? それでは、こちらをごらんください。
じゃーん! と両手をひろげて黒慧を指し示した早梅は、しん……と静まり返ったところで、ようやく異変を悟る。
「あれっ、なんか思ってたのと反応がちがう……えっ?」
黒皇の視線は、間違いなく早梅のとなり、黒慧へ向けられていた。
黒慧も、黄金の双眸でじっと黒皇を見つめ返していた。
押し黙る両者を取り巻く空気は、お世辞にもよろしいものとは言いがたい。
「お戻りでしたか、
「……
「答えられませんか」
先ほどまで、早梅の前でころころと表情を変えていた少年はいずこに。
たちまちに表情を削ぎ落とした黒慧が、抑揚のない言葉を放る。
何事か言葉をつむごうとした黒皇だが、口をつぐみ、黒慧へ沈黙のみを返す。
(黒皇と黒慧って、兄弟なんだよ、ね……?)
久しぶりの家族の再会とは、こんなにも痛くて寒々しいものなのだろうか。
「いいですよ、兄上がなにをなさろうと、僕は僕の役目を果たすのみですから」
黒慧の一方的な発言は続く。冷たく突き刺す声音は、
「長らくおじゃまをしてしまい、申しわけありません、
「あっ、ちょっと待って、黒慧!」
「それでは、よい一日を」
早梅が引きとめる間もなかった。
早梅へ向き直り、恭しく黒の袖を合わせた黒慧は、最後ににこりとはにかむと、
軋む音を立て、扉が閉まる。取り残された室内で、早梅はほとほと困り果てていた。
この空気、どうしてくれよう。
あー、うー、と意味のないうめき声をもらし、たっぷり思い悩んだのち、早梅は腹を決める。
「こっちにおいでよ、黒皇。起きるのを手伝ってほしいな」
「……はい、すぐに」
片ひざをついた体勢からすっと立ち上がった黒皇は、三歩で寝台へたどり着き、早梅の背へ手を添える。
「大丈夫かい?」
そこで目と目を合わせ、問いかけた。
黒慧とのことは、変に話をごまかしたり、聞かなかったことにするべきではないと判断した。
黒皇自身が、悪い冗談を言わない性分だからだ。
「兄失格ですね。……
「そんな、黒皇は……!」
「いいのです。本当のことですから」
黄金の隻眼が伏せられ、黒皇の表情に影が落ちる。
多くを語らない黒皇は、なにを思うのか。
「梅雪お嬢さま。この世界に、太陽はいくつも要らないのですよ」
その言葉が意味することはわからないけれど、なにかたいせつなことを黒皇はおしえてくれた。早梅は、そんな気がした。