「
「うれしい話だけれど、いきなり結婚はびっくりするかな?」
「それはそうですがっ……でもっ」
「でも?」
「寝ぼけていたとはいえ、
「あぁ、それで『寝込みをおそった』ね。そういえば、気の交換をすると、内功が高まるんだったか」
これは仮説だが、もしかすれば
早梅の『氷』が、疲労とともに蓄積した黒慧の熱を鎮めた。
黒慧の『陽』が、早梅を悩ませていた寒さをふき飛ばした。
打ち消そうと作用した力が、たがいの体内で乱れる気をととのえたのだ。
「ありがとう。君のおかげで調子がいいよ」
「僕は、お礼を言われるようなことは」
「してる。そもそも、
「それは……僕とはつがいになってくださらない、ということですか?」
自分を責めるのはやめてほしい、という早梅の言い分を、黒慧は理解していた。
だから黒慧が消沈しているのは、もう早梅への罪悪感にさいなまれているためではなく、『早梅に拒絶された』と、受け取ってしまったため。
(そう来るか。困ったなぁ……)
黒慧との会話は、どう転ぶのかがまったく予想できない。まるで、幼いこどもでも相手にしているようだ。
そう、黒慧はこどもなんだろう。さびしいのが嫌、だから早梅を引きとめたくて、そのための手段が『結婚』だと思い込んでいる。
恋に恋するお年ごろだろうと、軽くあしらうのも違う気がする。となれば。
「こっちに来てくれる? 黒慧」
なにを言われたのかと、しばし呆けていた黒慧だが、はじかれたように腰を浮かせる。
黒慧はすぐさま、ほほ笑みを浮かべた早梅に差しのべられた手を取った。
黒慧の手は、たしかに熱かった。熱湯の入った陶器の茶杯にふれているようだ。
ともすれば、ひりひりと痛みすら感じる熱だが、ふれられないほどではない。
「私たちは出会ったばかりで、おたがいのことをよく知らないだろう? だから、君のことを教えて? お友だちになろうよ」
そう焦らなくても、逃げたりしないよと。
おどける早梅を映した黄金の瞳が、ゆらいだ。
「梅雪さま……」
「うん?」
「オトモダチって、なんですか?」
僕わかりません、おしえてください、と。
早梅を上目遣う黒慧の表情は、純粋無垢なものだった。
「……うんん??」
まさかとは思うがこの少年、『お友だち』を知らないのか。『番』の意味を知っていて、なぜそこの情報だけがピンポイントで抜けているのか。
(あぁ……この子、
だがそれを思い出しただけで、猛烈に納得できるという不思議。
根は真面目なのに、どこかぬけている。
なるほど、まごうことなき兄弟だ。
「失礼いたします。おはようございます、梅雪お嬢さま。窓があいたままですが、おからだを冷やしたりなどは……」
うわさをすれば、なんとやら。
声がもれ聞こえたのだろう。早梅が起きていると確信した口調で、聞き慣れた低音がひびいた。