夢を見た。
闇の中に、桜が咲いている。
花びらを散らしている。ゆっくりと。
音もしない世界の中で、静かに、降り注いでいる。
―――だがよく考えてみれぱおかしい。
ここが闇ならば、桜すら見えないはずじゃないか。
足下すら見えない。自分は黒い服を着ているはずだから、それは特に。持ち上げたその手の、指先すら見えない。ここに自分が居るのかすら、判りもしない。
なのに、それだけが、浮かび上がっている。
何処から光が溢れているのかも判らない。そしてそこには影がない。ぼんやりとした白い光の中、その木はただそこに在り、花はただ降り注いでいる。
―――こんな夢には覚えがある。
それは奇妙に実感を伴った夢で、目に映るものの色や形だけでなく、頬に額に、むき出しの腕に触れる空気、足元の柔らかで冷ややかな土の感触まで、一つ一つがそこに確かに在るもののように感じられる。
覚えがある。
こんな感覚に、確かに自分は覚えがあるのだ。
―――いや似た物は知っている。
だがその時には、花だけでなく、辺りに光が満ちていた。
あの真昼の夢は。
―――そして目を覚まして、安堵する。