「マルチェルさん、似姿ができました」
心の整理をつけたステファノは、何枚かの紙に書き込んだエバの絵姿を差し出した。
「これは……。確かにお前の知り人なんですね。これが普段の姿ですか……」
1枚、1枚の紙面に何人ものエバが、活きた表情で描かれていた。
「ステファノ、ご苦労さまでした。この絵があればエバという女を探し出すことは簡単でしょう。彼女を見張れば、裏に潜む依頼者を
マルチェルは似顔絵の束を丁寧に畳んで懐に仕舞った。
「だが、泳がせるのはせいぜい2~3日です。わかりますね?」
「はい」
それ以上となれば、再度暗殺を仕掛けられるかもしれない。
ジュリアーノ王子をこれ以上の危険に
「王国内の命令系統を叩けば、公国側の一味は身動きが取れなくなる。手足を失うことになりますからね」
相手方が立ち往生している間に、婚礼を成立させてしまえば騒動に終止符を打てる。
まさかに、アナスターシャの夫となったジュリアーノ王子に危害を加えることなどできないのだ。
「婚儀が整えばアナスターシャ様はスノーデン王室の一員となられます。公国の王位継承権は失われるのです」
「それが一番平和な解決なんですね」
「ええ。
王国で暗殺未遂に関わった者は、別の罪状で処断されることになろう。暗殺者とそれを操る裏組織。
いずれ余罪だけでも死に値することは確実であった。
エバも……。
ステファノの胸に、ちくりと痛みが走った。
「勘違いしてはいけませんよ」
「……」
ステファノはマルチェルの声に顔を上げた。
「彼らを処刑台に送るのは彼ら自身です。お前ではありません。人には他人の運命を決める力などないのです」
「マルチェルさん……」
マルチェルはステファノの心に刺さる
「もっともわたしの前に立ちふさがると言うなら、この手で引導を渡して差し上げます。ああ、エバという女だけは手加減して上げますよ? お前に免じてね」
マルチェルは顔の前で右手を握って見せた。
ずしりと重い、岩のような拳であった。
「ステファノ。お前のここでの仕事は終わりました。わたしと一緒に商会に戻りましょう」