――もう、時間がない。
己の身体に刻まれた忌わしき印を見遣り、嘆息する。闇夜でも煌く銀髪がさらりと肩を滑った。
衣服の袷を元通りにし、静かに立ち上がる。
チャンスは一度。失敗すれば、二度とこの術を使うことは出来ないだろう。そうして無慈悲な運命の輪が廻るのだ。
深く、息を吐いた。指を宙に滑らせると、その軌跡が淡い青の光となって残る。
脳裏に鮮明に在る魔法陣を、寸分の狂いもなく指先で辿る。
これが自分に許された最後の賭けだと知っているから、祈るような気持ちでひたすらに陣を描いた。
そうして最後の連結を成した瞬間、魔法陣は質量を持たない図形から、世界と世界を繋ぐ『門』へと変化し――。
決して交わるはずのない世界が、繋がった。