百十六話「踏み込み」


――――。



 モールス視点。



「さぁ、ショータイムだ!!」


 と、決め台詞の様に豪語し、俺は眼前の魔物を睨みつける。

 作戦会議はした。

 あとは実行に移すだけだ。


 この作戦がうまく行けば、勝てる!


「――展開!」


 俺ら三人は右、左、後ろと展開する。

 俺は右、イブさんが左、ピーターが奥へと別れる。


 ここからは少し賭けの部分があるが。

 あの魔物が誰についていくかで作戦の『難易度』が変わる。


 俺についてきてくれれば一番楽にこの戦いを終わらせられるが。

 恐らくそうはいかないだろう。


 まあただ、奴には知性があるのも勿論分かっている。

 ある意味この展開は、奴の動向を探るための物でもあるんだ。


 だから、要するに、奴の殺意が誰に向いているかを確かめるための展開。

 そういう意味合いも兼ねている。


 だが、前述したとおり賭けの部分が大きい。

 もし奴が冷静な獣で、確実に勝ちに来るタイプならば、イブさんを狙うだろう。

 彼女は疲弊している。

 だから彼女を狙われたら、彼女の事を俺らは守り切れない。


 俺か、それともピーターか、どっちかだ。

 それ以外だとこの戦いは負ける。


「誘ッテルノカ! 人間風情ガ!!」


 魔物はそう啖呵を切り、唾を飛ばしながら一直線に飛び出した。

 魔力を放出した――くる!!


「――僕の方か!」


 どうやら魔物のヘイトは、俺でもなくイブさんでもなく。

 ピーターへと向けられているらしい。

 順当に行けばまぁそうだよな。


「イブさん! 後は頼みます!」

「分かったわ!」


 イブさんと離れながら別れを告げ、俺はまだ壊れていない街角へ入って行った。

 作戦通りならば、ピーターはここまで誘導してくるはずだ。

 既にこの周りであの魔物は『高速移動』を連発している。だから建物も何個か壊れている状態だ。

 だがここら辺ならば、まだ壊れてない建物が多いはず。

 これを利用する。


 ――視界の悪い場所への誘導。それが第一歩だ。


 そしてこのまま真っすぐ走れば。


「……よし、ここだ!」


 路地裏を走り、見慣れた通りを何度か進んだ。

 俺の記憶は間違えていなかった。

 目の前には目的の建物が確かにあったのだから。


「――【魔法】煙弾ッ!!!」


 刹那、空高く打ち上がったのは赤色の煙だった。


 これは合図だ。

 ピーターへの合図。そして、道しるべだ。


「ここまで来れるのか……?」


 作戦はこうだ。

 簡単な話、あの魔物を俺の後ろにある建物にぶつけるという乱暴なものだ。

 しかしこれが一番あいつに効果的なのは目に見えて分かっている。

 まず、あの魔物の厄介な点は『魔法』が使える部分だが。

 その魔法が『高速移動』と知ってしまえば、それを利用すればいいだけの話。


 問題は、その利用に適する場所を見つけられるかと。

 魔物をそこまで誘導できるかの二つだった。


 前者は俺の後ろだ。

 そして後者は、ピーターの役割だ。

 今打ち上げた煙弾はここまで誘導してくれの合図と共に道しるべ。


 流石に一人であの魔物の相手は難しいだろうが。

 あの魔物が怒っていてくれて助かった。

 もっと冷静に物事を見るタイプなら、この作戦の難易度は爆上がりしただろうから。

 魔物が単純な性格でよかった。

 魔物が馬鹿でよかった。


「――あれは」


 俺が剣を抜きながら待っていると、銃声共に空に打ち上がった黄色の煙弾を確認できた。


 黄色の煙弾。

 ピーターからの合図だ!

 って事は……くる。


 俺は俺が走って来た道を見つめる。


「………」


 ただ、変哲もない路地裏だ。静かな雰囲気の路地裏だ。

 でも、恐らく――ここから来る。

 魔物が全てを壊してくる。

 まるで破壊神だ。

 こんなレベルの魔物が、まだ何匹も。

 勝てるのか? 俺ら人間は。


「――――」


 分からない。分からないけど、でも。

 勝ってみせる。

 格好つける為に。


 馬鹿だって分かってる。下手くそだって分かってる。

 でも、でも俺は。

 ……俺も、なりたいんだ。


 あいつみてぇに、格好いい男ってやつに。


「来てみろ、魔物ども」


 勝ってやる。

 馬鹿な事を思ってる。

 無謀な事を考えてる。

 分かってる。

 でも、やらねばいけないのだ。


 自分が見た背中を、俺は忘れない。


 不変だと思ってた。でも違った。

 簡単に変わった。簡単に変化した。

 それも全て他人の力でだ。

 他人。他の人。嫌な響きだ。

 合わせて喋って気をつかって目を見て、そんな社交辞令に俺はうんざりしていた。

 表の仮面に嫌気がさして、俺は『クソ野郎』になった。


 ……だから、衝撃的だった。


 そんな他人に、同じクソ野郎が変えられた。

 いいや、言い方が違うか。

 変えられたんじゃなく、変えたんだ。

 あいつは子供だからと言って悪かった口癖を直し、タバコをやめ、働いた。

 あいつにそんな優しさがあるとは思わなかった。

 でも、最近気が付いたのは。


 優しさってのは、ある程度人間に兼ね備わった本能なんだって。


 人を想って人に合わせる。

 優しいってのはそういう事だ。

 それは、知らなかったけど、俺にもあったんだ。

 色んな事が重なって、環境がそれを忘れさせていたけど。

 人が人を変える。環境は人が作る。昔の環境は、俺にとっちゃ最悪だっただけで。

 今のこの環境は、少なくとも、優しくなれるほど余裕ができた。


 そして。

 あいつは自分で変わろうとし、変わった

 だから俺も、変われるんじゃないかと思った。


 追いつきたい。

 そんな感情をいつの間にか灯していた。

 俺はあいつにはなれない。

 でも、変わる事はできるはずだ。


「……幸せになってやる」


 掴むんだ。この手で、俺が欲しかったものを。

 クソ野郎だとか言って諦めてた人生を、もう一度。

 俺は俺のやり方で、俺をフル活用して。


 戦ってやる。


「………」


 音が聞こえる。

 小さな地響きと共に、音が路地裏に通っていく。

 雪が溶けて出来た水たまりがゆっくりと揺れ始め。

 空で虹色に輝いている花火が、まだ光っている。

 花火のうるさい音の最中で、小さく聞こえてくるその地響きは。

 次第に大きくなっていき。水たまりも大きく波紋を広げ――。


 くる。


「――【魔法】グランド・ウォーター!!!!」


 その瞬間、俺の目の前で魔力が集まり。

 魔力は大きな渦を描いて、空気中の水分を集め。


 直径4メートル程の、巨大な水の塊がその場に生成された。


「来い。溺れさせてやる」


 ドドドドドド――。

 地鳴りが急激に変化し、巨大な地震が来たかのような揺れを感じた。

 俺は必死に倒れないよう重心を意識しながら。


「――グガアアアア!!!」


 刹那、目の前の路地裏の奥から。巨大な魔物が全てを破壊しながら突撃して来た。


「建物の影響で大分スピードが落ちてるなぁ!」


 目で捉えられる速度になっている。

 ピーターは凄いな、ここまで上手く罠にハメるとは。

 さて、ここからは俺の番だ。


「――グッブッ!?」


 魔物は勢いよく、俺が作ったグランド・ウォーターへ突撃し。

 見事全身を包まれ、更に減速する。

 同時に俺は全身をその場で捨て、地面に飛び込む様に身を低くした。

 そして俺は杖を振り、魔物が突っ込んだグランド・ウォーターを背後の建物にぶつける。


 ――魔物は俺の背後にあった布を扱った店「手芸屋」へ突撃する。


 倒壊する生地屋、そこへ頭を突っ込んで一階から二階にかけて壊した魔物は、

 頭から“布”を何枚か被っていた。


 俺はあの店へ入ったことがあるから知っている。

 二階は色んなサイズ、色んな素材を使って編まれた布の置き場だ。

 もちろん素材にもよるが、基本布は水を吸い込むもんだ。


 体が重いだろ? 魔物よぉ。


 しかし、魔物はまだ止まる事も無く、そのまま次の建物へ突っ込んだ。

 これだけ大掛かりな被害を出しているのは申し訳ないが。

 こんな化け物を倒すんだ。一筋縄ではいかない。


「クッ、クソガァァ!!」


 魔物は次の建物を破壊した。

 あそこは確か酒屋だ。それすら破壊するんなんて罪深けぇなぁ?

 そしてまだ減速しきらないらしい。

 ――だから、これであいつの動きを完全に【止める】。


「イブさん!!」

「了解!!」


 魔物がこれから突っ込む建物の横で待機していたのは、イブさんとメルセラだった。

 悪いな、隠れてろって言ったのに。

 お前の力も必要なんだ、メルセラ。


「今だ!! イブ、メルセラ!!」

「「はい!!」」


 イブとメルセラは俺の掛け声と共に杖を握りしめた。

 そして大声で叫ぶ。


「――【上級連鎖魔法】青薔薇の奇跡!!」

「――【上級連鎖魔法】青薔薇の奇跡ぃ!!」


 刹那、青薔薇の根が具現化し、魔物の体に巻き付いた。

 『青薔薇の奇跡』は拘束魔法だ。それも二人分。


「ウ゛、ウゥゥゥ!!!!」


これなら、いくらあの魔物とはいえ思い通りには動けないだろう。


 そして、最後の仕上げだ。


「終わりだ」


 魔物は最後の力で、一つの建物に突っ込んだ。そこは、――武器屋。

 剣や盾、騎士が着る鉄の甲冑も売っている。

 品ぞろえは俺が保証する。

 そんな店に突っ込んだら、いくら異形種だとは言え、その場で大幅に減速するだろう。


 それが隙だ。


「今よ! ピーター!!!」


 とイブが叫ぶと共に。

 魔物が今突っ込んだ建物の右側に居たピーターが強く地団太を踏み。

 握っている杖を下向きにして。

 ――杖を地面に突き刺した。



「――世界のマナよ、三神の意に基づきかかげた三本の線を結び」



 詠唱がその場に響く、

 そして次は、イブが杖を地面に突き刺して。



「――人界に降りし醜き猛獣を囲い、憐みと因縁を込めたささやかな祈りを捧げ」



 ピーター、イブと詠唱を繋いでいき。

 ――俺は自分の杖を地面に突き刺し、口を開いた。



「――醜き哀れな猛獣を、破壊の限りを尽くす罪そのものを、金属を媒介にし、この三角形に」



 頭上、現れたのは三角形の魔法陣だった。

 黄色い線で構成されたその魔法陣は、

 七色の空に同化しないほど強い光を有しており。

 それが三人の最後の掛け声により。


 魔物が動けなくなっている地点に落下した――。


「閉じ込め給え!!!」


「閉じ込め給え」


「閉じ込め給え!」


 三角形が描くのは光の檻。

 閉じ込められたのは破壊の獣。

 三つの点が線を結んで、回って、そして。




「「「――【上級連鎖魔法】三転楔ウェッジ・ドラフト!!!」」」




 ――収縮、三角形の魔法陣は中心で動けなくなっていた魔物に巻きついた。

 同時に、三角形の中に存在した金属は全て、魔法陣と同じように魔物にくっつき。


「グッッッガアアアアアアアアア!!!」


 異形種を完全に足止めすることに、成功したのだった。



――――。



「……本当に、うまく出来るとは思わなかった」


 上級連鎖魔法。そんなものを俺は使えない。

 しかしながら、ある程度の詠唱を人に任せ、俺は魔力だけを与える事で。

 初めて俺は上級連鎖魔法を使用できた。

 何だか、規模感が普通の魔法とは全く違ったなぁ。

 魔法も、真面目にやってれば楽しかったんだろうな……。


 俺はそのまま地面に寝そべった。

 流石に色々と無理をし過ぎたらしい。


 俺が疲れ切って目を閉じていると、足音がしてきて。

 同時に俺が知っている香水の匂いがした。


「すまないメルセラ、結局出てきてもらって」


 俺は、倒れた俺の元へ急いでやって来たサーラ・メルセラに話しかける。

 そんな言葉を無視しながら、彼女は手慣れたように俺の応急処置を始めた。



「……」

「………」

「……流石に無茶しすぎですよ」


 その弱ったような声に、俺は瞳を開けると。

 彼女は俯きながら、何かを堪えるように包帯を巻いてくれていた。


「そうだよなぁ。ごめん。ただ、ここは奢らせてもらうけどさ」

「………」

「多分、俺がいなきゃ。勝てなかったぜ?」

「……そうですね。私もそうだと思います。モールス様がいなければ、あの魔物を“捕らえる”ことは出来なかったでしょう」


 捕らえる。そう、捕らえたのだ。

 あの規格外の化け物、異形種を――。


「グッガガガ、アアア!! …………ッ」


 魔物の体には、青薔薇と魔法陣、そして武器屋の中にあった金属が全てくっついていた。

 それに、布が水を含んで、それが複雑に魔物に絡まっている。

 あの魔物も流石に諦めたように息を付いて、静かになった。


「……」


 感じたのは、ここまでしてやっと身動きを封じられるレベルの魔物がまだいるかもしれないという恐怖だった。

 ははっ、どうやら俺は、とんでもない戦地にいるらしいな。


「イブ、剣を貸してくれ」

「短剣でいい?」

「もちろん」


 ピーターはイブから受け取った短剣を握り。

 その状態で拘束され動けない魔物の上に乗った。


「ナニヲスル?」

「決まっているじゃないか、尋問だよ」

「尋問、ダト?」

「そう、教えて貰おうか。君らの事を」


 異形種と呼ばれたあの魔物への事情聴取。

 そんな大事な事が、俺の目の前で始まろうとしていた。



――――。



「お前はどうして人間を襲う?」

「本能ダ。俺ハ、オ前ラガ憎イ」


 と、魔物は落ちたトーンで言った。


「普通の魔物ならば自我と知能を持っていない。なのにどうして、お前は違う?」

「……俺ハ選バレタンダ。アノ、死ノ魔人ニダ」

「死の魔人……クラシス・ソースか?」

「違ウ。ソンナ人間デハナイ。俺ガ全テヲ捧ゲタノハ、【魔王様】タダ一人ダァ!!」


 言葉の抑揚と共に、魔物はグググと大きな体を動かした。

 少し場が騒然としたが、ピーターは続ける。


「魔王なんて大昔の存在だろ。今のこの時代には存在しない」

「イイヤ、生テルサ。大昔ノ魔王様ガ、残シテクダサッタノダ」

「……残した? 残すものなんて何もないだろう?」

「フッ、今ニ分カルサ」


 そう意味深な言葉を残して、魔物は口を閉じた。


「――――」


 それ以上は魔王について口を割らなかった。

 ピーターが剣で体に傷をつけ、脅しても。魔物は無言を突き通し続ける。


 時間もないので、仕方なくピーターは次の質問をした。


「お前たちの目的はなんだ」

「………」


「お前らは何匹いる?」

「………」


「お前らはどうやってここに現れた?」

「………」



「……ピーター、こいつ」

「もう喋る気はないらしいですね。元々生かす気もありませんでしたが、これで終いです」


 魔物はついに、喋らなくなった。

 まるで知性を失ったように、意思の分からない赤い瞳がぐるりと動いている。

 何も見えなくなった。

 動物のそれと同じものしか、この魔物からは感じれない。


「一思いに」


 ピーターは剣を突き刺した。


「………」


 喉元を裂いて、核を探す。

 胸は剣が入らなかったらしい。

 聞きたくない音が聞けてくるが、俺は我慢した。


 喉から剣が突き刺さり、そこからピーターは首を切断する。

 そして見えて来たのは――魔物の核だった。

 黒く禍々しい模様が刻まれた赤い球、それが魔物の核だった。

 ピーターはそれを発見した瞬間、すぐさまその核に剣を突き刺し。


 ――た瞬間。



「っ!?」

「ヒッ!」


 ぐっと、ピーターはなぜか切断した魔物の口に引きよせられていた。

 俺からは状況を確認できず、少し体をよじってみると。


 そこには、衝撃的な物が現れていた。


 ――魔物の口の中から、人間の手と思われる物が出て来ていたのだ。


 その気味悪い手につかまれたピーターは、引っ張られるが抵抗し。

 歯を食いしばりながら片手の剣で核をもう一度刺す。


「ぐっ……なんだ?」

「……覚えておけ、人間」


 聞こえてきたのは、人間の声だった。

 でもその声は、明らかに。――眼前の魔物の切られた口から発せられていた。


「俺ら『キメラ型強化戦闘用・デーモン』が、何でできているか……!!」


 魔物はそう縋るように、苦しそうに言った。

 そんな魔物に、ピーターは言った。


「そんなの言われなくとも、知っているさ」

「……なに?」


「――人間だろ。元人間だ」


 ……なに?

 なんて言った?

 今、魔物は、人間だと言ったのか?

 何を言って――。


「もう眠れ、魔物よ」


 最後にもう一突き、ピーターが核を刺すと共に。


 程なくして、断末魔もなしに倒された魔物の体は。


 蒸発するように消えて行ったのだった。



――――。



「どういう事だ? ピーター」

「………」

「人間って、どういう事だ? 魔物は、魔物は……人間なのか?」


 ピーターは確かに、魔物に対し人間だと言った。

 それに魔物の口の中から。

 人間の腕が、出て来ていた。

 一体全体どういうことだ?


「世の中には、知らない方が幸せな事がある。モールス」


 俺に振り返り。

 そう落ち込んだように言うピーター。


 でも俺は納得が出来なくって、つい歯を食いしばり。


「教えてくれ」

「……」

「魔物とは、なんなんだ」


 魔物とは何か。

 異形種とは何か。

 キメラ型強化戦闘用・デーモンとは、何なのか。


「ピーター、どうする?」


 俺の背後で、イブがそう困ったように言う。

 そんな彼女を見てピーターは、片手を突き出し、静止の合図を出した。


「説明するよ。でも、当たり前だけど、これは口外禁止だ」

「分かっているさ。だから教えてくれ、魔物の正体を」


 もちろん、積極的に知りたいわけじゃない。


 でも、ここまで俺は土足で踏み込んだんだ。

 もう戻れない、沼に。

 足を突っ込んだんだ。


 聞かなければいけない。

 知らなければいけない。


「魔物の起源は、ご存じですか?」


 渋々と、ピーターは語り出した。


「……知らない」


 言われてみれば、起源までは知らなかった。

 俺は一応学校へ行っていたんだが。

 魔物の起源なんてやっていない。

 と言うか、あまりちゃんと考えた事すらなかったな。

 ただ、動物とは違い、魔力を喰らって生きている生物と言う印象で。


「起源は1300年前の、まだ魔王グルドラベルが全盛期だった時代です」

「そんなに昔なのか?」

「はい。魔物とはまず、魔王グルドラベルが支配していた生物でした。と言うか、言ってしまえば、“魔王グルドラベルが作った生物”なんです」

「作った……?」

「『生物兵器』ですよ」


 ……話の結末が見えた気がする。

 俺だって1300年前の事はある程度学校で教わった。

 魔王グルドラベルは魔族と魔物を率い、人間と戦争を起こしたあの歴史。

 そしてその魔物を作ったのが、その『魔王グルドラベル』ならば。


「魔物の起源、それは最悪な錬金術で、人間と動物を合成した。非人道な生物兵器なんです」

「――――」


 知らなかった。

 そして同時に、知りたく無かったとすら思ってしまった。


 そうだったのか。

 あの恐ろしい魔物の祖先は、『人間』だったのか。


「今も残っている魔物は、全てあの時代の生き残りです。でも、自我がある魔物なんて聞いたこともない」

「……初めて知りました」

「知らないのも当然です。まずまずこの事実は、学校などでは習わないので」

「そうなんですね」


 そんな事実が、ずっと隠されていたということだろうか?

 ……確かにそんな事実が公になったら大変なことになるだろう。

 でも、どうしてそんなことをピーターが?


「………」


 細かい事を聞きたいが、しかし、今は時間がない。


「時間を取らせた。すまない」

「問題ないですよ。さぁ、避難場所へ行きましょうか」


 そう言えばそんな話だったな。

 俺とサーラを避難させてる途中で魔物に襲われたんだった。


 ……役に立ったよな。俺は。

 立てたんだよな。


「ははっ」


 俺は、あいつになれたのかな。


 俺とサーラはイブさんとピーターに囲まれながら、

 また移動を始めようと準備をする。

 身なりを整え、少し壊れた瓦礫をどかしながら。

 改めて周りの惨状を目の当たりにする。


 俺、一応ここらへんの店の人と仲いいんだよなぁ……。

 すぅ……。

 あくまで俺はこの場に居なかった事にしよう、うん。


「……ん?」


 すると、ふと。

 とんとん。と肩を叩かれ。

 急いで後ろに振り向くと。


 結んでいた茶髪が崩れた女性、サーラ・メルセラが立っていて。

 小さな口をゆっくり動かして。


「格好よかったですよ、モールスさん」


 ――――――え?


「――えっ、あ。えっっ? え?」

「ふふっ、行きますよ。モールスさん」


 ………。

 様から、さん付けになった。


「……」


 え?


















 泣きそう。

 泣いていい?





――――。



 数分前。


 ゾニー視点。



「イブさん!! ここは我々が引き受けますよ!!」


 巨大な青竜の目の前に、翼を生やした魔物が「グルル」と唸っていた。

 そんな様子を発見した僕らは、剣を抜いて。


『すみません、近衛騎士団の皆さん!! 頼んでいいですか? 』


 イブが空中で魔物に絡まれ、落ちた先は『大魔法図書館』だった。

 高く石で作られた図書館の前で。

 ゾニー達、十五部隊と遭遇していたのだった。



 異形種とゾニー達。十五部隊の戦いが、始まる。





 余命まで【残り●▲■日】