「ねえねえ兄さん! 僕と遊ぶなのだ~!」
「剣、魔法見せて。ねえ。見せて。見たい」
現在俺は、二人の子供に言い寄られている。
ポンポンと屈んでいる俺の頭を殴り、そう質問攻めにする二人。
水色のズボンに白いシャツ、
大きく丸い目に長めの髪を髪留めで束ねた二本の髪を肩から流している少年。
『なのだ』口調が特徴の【アリィ】と言う少年と。
逆に薄いピンクのズボンに白いシャツ。
これまた可愛らしい目に髪を束ねずに二本前に流しているおっとりとした少女。
淡々と言っているが多分俺に興味深々な少女、【ソーニャ】だ。
ほとんど見た目が同じなのは、まぁ双子なのだろう。
こりゃ下手したら、アーロンと同じ年かそれ以下だろうな。
「ごめんなさい。二人はよその人を見ると、気になって仕方なくなる性格なんです」
と、後ろからあらあらと言いたげに歩いてくる黒いドレスを着た真面目そうなお姉さんが言った。
名は【ナターシャ】と言うらしい。
「ご主人様、人気者ですね」
「不本意だ」
「遊ぶなのだ~!」
「見せてよぉ。気になるの。お願い?」
ここは人魔騎士団の事務所だ。
目的地、三週間の旅の末ここまで到達した。
騎士団なんて言うから、てっきり豪華で広い基地的なのがあるのかと思ったが。
思っていたより小さく。そこはただの一軒家だった。
「すまない。馬を戻していたら、遅れてしまったのだが……」
と、背後の扉からサリー・ドードが顔を出すが。
俺の状況を見るや否や、何かを察し。
「ご愁傷様だ」
「見捨てるな、仲間だろう」
「この旅の中でお前を仲間だと思った事はない」
「じゃあなんだと思ってたんだよ!」
「……お荷物」
「聞かなきゃよかった!」
ここは『魔解放軍』打倒を目的とされた組織。人魔騎士団だ。
和気あいあいとした雰囲気だが、
ここに居る人間が立派な騎士団メンバーだ。
つまり、猛者。
何かの才能があったり。
魔解放軍にとって有効打になりえる何かを持っている連中だと言う事だ。
とりあえず俺はアリィとソーニャをアーロンに押し付け。
アーロンの目には助けてと書いてあったが無視をしつつ、俺はナターシャさんに事情を語った。
『ドミニク・プレデターと言う男に、俺らは魔道具ディスペルポーションを奪われた』
「…………」
「…………」
「でぃ、ディスペルポーションですか……実在したとは……にしても、本当に災難でしたね」
「災難、ではあったな。こうも騙されて利用されるとは思ってもみなかった」
実際、死者を出してしまった。
俺の永遠の後悔になるだろうキャロルの件は、今でも俺の中に強く残り続けている。
キャロルの仇、と言う意味でも魔解放軍を見つけなければいけない。
「サリー。思わぬ副産物でしたが素晴らしい成果ですね」
「ありがとうございます。彼らの能力と度胸は知っていたので、あの場で勧誘して正解でした」
なるほど?
ナターシャさんは一応、サリーより上の立場なんだ。
じゃあリーダーとかなのかな?
「リーダーへの報告はしましたか?」
「行いました。リーダーは歓迎していましたよ」
「あれ? ナターシャさんはリーダーじゃないの?」
話の割り込みをしてしまった。
つい疑問に感じた事を口に出してしまったな。何だか、申し訳ない。
「私は一応、『リーダーの秘書』と言う立場なんです。
リーダーは、現在別の場所で違う方面からアプローチを掛けている為、事務所不在なのです。
あ、でもリーダーが居ないからか、最近は秘書と呼ばれる程秘書はしていませんね」
なるほどな。リーダーは別行動なのか。
一応、サリーから人魔騎士団は団体行動が基本だと聞いていたが。
そのリーダーとやらは違うのだろうか。
「だが、ナターシャは俺らの中では一番頭が切れるし、とても強いぞ。
だから俺らは何かあるたびに、リーダーではなくナターシャへ判断を任せたりする場合もある」
一応そうゆう指導者的立場も出来るのか。
見た目から仕事できますって感じだったが、まさかそのままだとは。
もう少し敬語で会話した方がいいかな?
「あ。だからと言って、敬語は結構ですよ」
「え。あ、はい」
「――おぉーいおい? 客か、ナシャ」
すると突然、乱入してきたように事務所の入り口から入ってきた男が居た。
男の見た目は。言うならば他のみんなと画風が違った。
淡い色で上下を揃えており。
黒いカウボーイハットから飛び出すのは黒髪で、
その隙間から黄色のインナーカラーの一部が片目を覆っていた。
その男は変な物言いで、ナターシャさんをナシャと省略して読んでいるらしい。
「あぁ、アルセーヌですか。お使いご苦労様です」
ナターシャからアルセーヌと呼ばれるその男は。
普通の人間とは少し違う雰囲気を感じ取った。すると、俺をじろじろ見た後。
「ちぇ」
「あ?」
アルセーヌは俺を見て、つまらない物を見るような顔で舌打ちした。
流石に俺も喧嘩売ってんのかくらい言いそうになったがぐっと抑え。
「あ? 君、魔力の総量が多いね。将来、有望な魔法使いになれるんじゃね?」
「……え? 僕ですか」
その男は、俺を無視した後ついにはアーロンへちょっかいを出し始めた。
男は怖い目でアーロンを睨み。アーロンは明らかに返答に困っている様子だった。
これは親でもある俺が行くべきか。
あ、でもさっき舐められたばっかだな……少しだけ、昔の俺を呼び戻すか。
「――おいお前、うちのアーロンに、なんか用か?」
「……え? 俺の耳が壊れてるとかじゃないよな。お前の子供とかなん? こいつ。
才能ない奴から才能ある奴が生まれたって事かよ? 0から1は生まれねぇ筈だろ」
「アーロンは立派な俺の子供だ。事実、俺しか知らない部分が沢山あるからな」
と、俺は胸を張って思いっきりドヤ顔した。
ナターシャはアルセーヌとケニーの口論を見て、また始まったか、とため息を吐き。
そのケニーの言葉にアーロンは頬を赤らめ。
双子は赤らめているアーロンを見て、心の中で同時に『これが親バカと言う奴か!』と思った。
「少なくともお前からは魔力を感じねぇんだが。お前がこいつの親って正直信じられねぇなぁ」
「よく見ろ。俺の手とか、こいつと似ているだろ?」
と、俺は腕を突き出し。アーロンも流れに任せ腕を突き出した。
ちなみにケニーは気づいていないが、全然似ていない。
謎のシンパシーをアーロンに抱いているだけだ。
ナターシャは二人の腕を見て『?』を浮かべ、
双子は心の中で同時に『これは親がバカなタイプだ!』と思った。
サリーは流石に見ていられなくなり、飽きれた顔をしながら。
「はいやめやめ。アルセーヌもいい加減にしろ。ケニーはこれでも、勇敢な男だ」
「え? どこが」
「その魔眼で見える魔力総量で、相手の力を決めつけるのは悪い癖だぞ」
「おぉーいおい、何言ってんだよ。魔力はそいつの魔法技術の根幹。それが無きゃ、何もできねぇだろ」
「魔法が全てじゃないと、俺の前で言う気か? ――アルセーヌ」
「それは……っ」
そのサリーの言葉に、アルセーヌは口を歪めた。
魔眼持ち。つまり、アルセーヌは『魔族』と言う事らしい。
魔力総量を見れる魔眼か。
それで舐められるとか、すっげえ嫌だな。
これでも死神直々に生かしておくと厄介な事になると言われた俺だ。
魔病で魔力奪われてなければ、こんなやつ………。
「それにな。ケニーとアーロンはもうウチのメンバーだ。強さは、俺が保証するよ」
「……サリーが言うって事は相当だが。俺は、認めねぇぞ」
まぁ今はそれでいいと、サリーは肩を落とした。
つうかさっきから気になっていたんだが。俺とアーロンの事、サリーはどう思ってんだ?
すっげえ過大評価されてる気がしてるが、俺らなんかしたっけ?
………。
あ。あれかな? 北の街襲撃時に、俺とアーロンが近衛騎士団に真っ向から歯向かったから。とか?
確かに普通の人間には出来ないが……その勇気と言うかバカさは、このチームに必要なのだろうか?
「まぁとりあえず。長旅でお疲れでしょう。お部屋をご用意しますね」
――――。
と言う事で、事務所近くの宿を(人魔騎士団の負担で)借りた。
「部屋の装飾豪華だな」
「サザル王国に比べると、色んな場所が小綺麗ですね!」
部屋は大き目の寝台が二つ並べられ、さびれた金属のシャンデリアが天井にポツンとあった。
サザル王国と比べると街の雰囲気も違うし、夜になっても、外は少しも静かにならなかった。
まさに毎夜毎夜のお祭り騒ぎ。
ここで暮らすのも、ありかもしれないな。
「また明日から。本格的に人魔騎士団の活動が始まるらしいな」
人魔騎士団は基本隠密で活動しており。
公な組織ではなく、あくまで秘密組織的な奴らしい。
魔解放軍事態が噂程度の存在だから当たり前だろう。
本格的な活動。何をするかと気になって少しだけ聞いてみたら出てきた言葉があった。
『この街に、魔解放軍が潜んでいる』と。
それだけがアルセーヌの口から出てきた、一番大事なワードだった。
ひとたび外を見ればそこはお祭り騒ぎの街なのに、そこに、本当の意味で皮を被っている悪魔が潜んでいる。
それは俺らがサザル王国で経験してきた事であり。
奴らはきっと、紛れるのに手馴れている集団なのだろう。
魔解放軍と言う組織がどんなものか、人魔騎士団がどうゆうものか。
俺ら二人はまだ知らない。これから知っていくんだ。
見極めなきゃいけない。俺も、アーロンも。
この世界を、道を、人を。
「ディスペルポーションを取り返すって、どうやればいいんでしょうね……」
「魔解放軍のドミニク以外の情報が無いからな。計画とか考えるには、あまりにも情報が少なすぎる」
「せめて、奪えるチャンスを作る方法くらいは知りたいですよね」
そう言い、アーロンは凹んだように俯く。
事実その通りだ。
情報が圧倒的に足りな過ぎる。
ディスペルポーションを取り返す為人魔騎士団へ来たのだが。
実際問題、確実にポーションを取り返す手立てなんて無いし。
ここからどうゆう展開になるか、俺にすら想像できない。
「……今は、チャンスを伺うしかないか」
「そうですね」
俺らはそう不安がりながら、眠りについた。
「作戦を説明しますね」
翌日。中央都市アリシアへ二日目。
アリィ、ソーニャ、アルセーヌ、サリー、俺、アーロンが全員集合した。
ナターシャさんが作戦と言うのを説明してくれるらしい。
「現在、この中央都市アリシアには魔解放軍が潜伏していると我々は睨んでいます」
から始まり、その根拠としてリーダーの指示だと最初に教えてくれた。
どうやらそのリーダーとやらはこのチームから絶対的な力を持っており。
情報源なども、主にリーダー経由らしい。
俺らからしたらどこに信用していい要素があるのか不明だが。
とりあえずは聞くことにした。
だが。
その瞬間、目の端に写ったそれに、俺らとサリー・ドードは混乱した。
「……なに」
「……どう、して? どうして。死神の情報が、公になってんだよ……ッ!」
机に放置されていたソレ見て、俺とサリーは真っ青になった。
“死神についての情報が全てまとめられた”張り紙に、俺らは戦慄したのだった。
こうして始まった人魔騎士団としての一日。
だが、この状況は、数日で一変してしまった。
――――。
「動き出したねぇ」
黒い男が、赤い瞳に何かを宿し。
見下すように何かを見ながら。
「……不純物も混じってんなぁ。まさか、俺ら以外もこの都市に潜んでるとは」
空高く、黒いオーラを纏い、浮きながらドミニク・プレデターは言った。
その目線の先、そこには。
「見られていますね。それにこの気配、彼が嫌がる気配です……さて、もうそろそろですか」
余命まで【残り153日】