四十五話「王都王城」


 手紙が来てから一週間が経った。


 変わったことがあるとするなら、俺は少しだけ剣で戦えるようになり。

 ゾニーとナタリーが、プライベートの関係を持つようになった事だ。

 あぁ、そうだな。

 プライベートと言っても付き合ってはいない。

 ただ、甘いものを一緒に食べる友達って感覚らしい。


「サヤカー!支度できたか?」

「勿論です。着替えなどの荷物はこれで良いんですよね」


 と、リビングでサヤカは荷物を指さす。

 なので俺は答えながら。


「そうだ。サヤカは何か買うのか?」

「そうですね。魔石屋さんに行こうかなと」


 突然の展開だし、前回の終盤部分を忘れている諸君らの為に説明しよう。


 俺らは今から、数日間王都で過ごす。

 それは魔法大国グラネイシャの、王様からの招待だった。


 まぁ今まで、なんとなしに王都へ行ってたりはしたのだが。

 今回は完全に旅行気分だ。

 何故なら、あまり行っていない。

 つうか、普通は入れない。

 貴族達が暮らしている地域に行くことになるからだ。


 と言っても、俺とゾニーは一度行ったことがある。

 王都から東側に位置する、貴族の家が並ぶ地域。

 俺は一度、エマ姉さんに会うために行った事があるのだ。


「楽しみですね!」


 だが、サヤカは一度も行った事はない。

 確かにあそこら辺の風景は面白いものだった。

 サヤカも楽しみなのだろう。

 そして、今回一緒に行くメンバーがいる。


 ゾニー・ジャックだ。

 彼は王様から直々に案内役として任命されているそうだ。


『緊急。死神に関しての会議に来てください。貴方の活躍は耳に入っております。

 死神についての対策会議、及び情報の開示を致します。

 日時は別紙にて。    第23代目王様 アルフレッド・グラネイシャより。』


 死神に関しての会議。

 俺たちの活躍と言っても、そんなに活躍したっけ……?

 ……うーん、活躍ってより。

 迷惑しかかけてないような気がするがな。


 まぁだが、死神についての情報開示。これが一番気になる。

 要するに、王都側は死神について何かしら知っていたと言う事だ。

 情報開示。そうだな。

 それで今後の対策になるなら、喜んで聞きに行こう。


 そしてだが、どうしてサヤカもついていくのかと言うと。

 サヤカは別件、別枠だ。

 ちなみに、トニーも一緒に行く。

 サヤカとトニーは、数日間、完全に旅行気分で王都を満喫するらしい。

 俺とゾニーは国の王様と対峙するってのに、子供は呑気だと言ってみるが。

 まぁ実際、子供が入れるような話じゃないのは一目瞭然だ。


「サヤカ。トニーを向かいに行きな」


 と、遠くで支度しているサヤカに話しかけてみる。

 時間を見てみると、もう既に日が落ちそうな時間であり。

 多分だが、王都に到着する頃には夜中だろうか?

 王様の招待と言う訳で、特別にスイートルーム?と呼ばれる別枠の宿を貸してもらえるらしい。

 なんと、タダで。

 無料でだ!


「わかりました!ご主人さまは?」

「俺はゾニーを待つよ。家に来てくれるらしいからさ」

「了解です」


 サヤカは家を出ていき、俺は一人で荷物を積める。


 ゾニーとナタリー。

 二人の関係は良好だ。

 俺が手引きしているのもあるが、このままいけば付き合うのだろう。

 あの後のゾニーだが、心変わり?をした。

 昔のゾニー、とまでは行かないだろうが。

 変化はあった。

 言葉で表現するのは難しいけど。言うなら、昔より絡みやすくなったな。


 そういえばだが、カール兄さんがサーラと話をしたらしい。

 数日前、ゾニーから教えてもらったのだが。

 サーラとカールは買い物先で偶然出会い、そこで近況などを報告しあったらしい。

 サーラ・メルセラは元々ジャック家の使用人だ。

 俺以外の兄弟とも、元々仲がいいのだ。

 今はモールスと良い感じの関係らしい。

 近くに実りそうな恋があって、なんだか俺が置いてかれてる気分だ。


「ま、俺は恋愛とか良いかな」


 そういえば、カール兄さんに聞かなきゃな。

 ゾニーと話してた、血とか家族とか云々の話を。

 この一件が終わったら、聞いてみるか。


「………」


 つうか、カール兄さんも来るんじゃね?

 兄さんも戦いに参加したし、何なら当時の団長だ。

 そう考えると、少しだけ心配だ。

 精神的な問題でな。

 今の兄さんには無理をしてほしくないし。


「もし王城で会ったら、優しくしてやらなきゃな」


 ……王様は、どうして俺を呼んでいるのだろうか?

 別に俺は貴族の息子ではあるが。

 俺に死神の情報を開示すると、わざわざ手紙を送るのはどうしてなのだろう。

 俺とこの国の王様とは、今まで全く接点がない。

 だから、少しだけ違和感だ。


「……ま、考えても仕方がないか」


 まぁどちらにせよ行けば分かる話だ。

 行くのを楽しみにしていよう……。



――――。



 その後、ゾニーとトニーと合流し。

 俺たちは迎えに来た馬車に乗せられ、北部の街を走り出した。

 カタカタと馬が鳴り、いつも乗るものより豪華な馬車が発車した。


「この時間からって、道とか暗くねぇのかな?」


 と言う素朴なトニーの疑問に、運転手?御者と言うのだろうか?

 そんな人が答えてくれた。


「この馬車には魔法が埋め込まれています。私たち人間には暗闇ですが、馬たちには昼間当然のように見えているのです」


 と、得意げに教えてくれた。

 流石魔法大国と言うだけあるな。そうゆうのもあるのか。

 俺の目の前にトニーとサヤカが並び、俺とゾニーは隣どおしだ。

 サヤカはトニーに、王都の凄いところを教え、それを聞いてトニーの目が輝く。


「仲が良いんだね」

「そうだぜ?サヤカとトニーは友達だ」

「僕もなんだか、そうゆう友達が欲しかったよ」

「同感だ。俺は引きこもってたから、なんだかサヤカ達が微笑ましいよ」


 羨ましそうに見るゾニーに、俺は答える。

 確かに、サヤカとトニーの関係値は誰が見ても憧れるものだ。

 俺も小さいとき、こんな感じの友達……いたな。

 エマか、そのポジションは。

 そうだなぁ、二人は今のまま、喧嘩なんかしないでほしいなぁ。


「そういえば。トニーくんはどうして王都に?観光?」


 と、輪に入ろうとゾニーが話しかけた。

 するとトニーは元気よく振り返って。


「王都には、俺の兄さんが働いてるんだ」


 そう。王都にはトニーの兄が居るのだ。

 トニーから詳しいことは聞いていないが、兄が働いている場所を知っているから会いに行きたいらしい。

 どうゆう訳か、あまりトニーのお兄さんは帰っていないと。

 あの魔物の事件があっても、連絡一つないと。


 まぁでも、それが兄だとトニーは言っていた。

 どこか抜けていて、天然で、そして天才だと。

 何考えてるか分からない人間だと、トニーは言っている。


 事実、昔ヨアンと話した時。

 トニーの兄、ピーターと言うらしいが。

 あいつから連絡が無くとも、信用している感じだった。

 できた兄なのだろう。


「お兄さんが働いてるんだ。何してる人なの?」

「知らない」

「え?」

「そのさ……あのお兄ちゃんが何してるか、家族の誰も知らないんだ」

「それは……どうして?」

「知らない。でも、あの人の性格からして、何かで成功してると思う」

「どうして言い切れるんだい?」

「そうゆう人だからだよ」

「あぁ」


 トニーの言葉に、ゾニーはどこか俯く。

 まぁ多分だが、ピーターとやらは。ゾニーから見たら、スポットライトが当たってる人間なのだろう。

 選ばれた人間とでも言うのだろうか?

 まぁ俺は信じちゃいねぇが。

 家族からそこまで信用されてるんだ。

 別に何ともない気がするよ。


 そこからしばらくの静けさが走った。

 そして、ゾニーが話しかけてくる。


「そういえば、カール兄さんの状態は?」

「なんで俺に聞くんだ」

「だって、兄さんが今のところ一番距離近いんじゃないの?物理的にも心理的にも」

「……まぁ、そうだけどさ」

「……まさか、会いに行ってないの?」

「おん」

「これ終わったら行くんだよ」


 別に忘れていたわけじゃない。

 ゾニーの言いたいこともわかるし、正直俺も心配だけど。

 なんつうか。

 今は一人にしてやりてぇなって思うんだ。

 今、俺たちは死神、あの戦いについて調べている。

 そんな俺たちが、兄さんに会いに行ったら。

 あの事を、思い出させてしまうかもしれない。

 だから今は、距離を取りたい。

 兄さんの為に。


「あ、ゾニー。ケイティについてなんか聞いてるか?」

「ケイティなら。東部にあるサザル王国に向かったはずだよ」

「サザル?聞いた事あるなぁ」


 ……あ、バーモク病だ。

 バーモクが初めて発見された場所だ。

 そこにケイティは向かったのか。

 確かサザル王国って。


「サザル王国。魔族と人間の比率が半々の国。

 別に他の国にも魔族は居るけど、他の国は……魔族の治安がね」

「そんな場所なのか……確か、魔病って魔族が関係してるとか噂があるもんな」

「だからだと思うよ。兄さん。妹の努力を無駄にしないでね」

「俺も出来るだけ善処するさ」


 俺の死っ面をケイティが見たら。

 天国まで登ってきてビンタされそうだ。

 こわいこわい。


「俺も、死にたくはねぇ」


 小さく、呟きに近い形でそう言う。

 そして俺たちは数時間馬車に揺られ。



――――。



 宿に到着した。

 暗いから宿の形を表現するのは難しいが、装飾が凄いとだけ。

 エントランスを進み、フロントから金のカギを受け取った。

 その足で最上階まで登り、そのままみんなでベッドに飛び込んだ。

 フカフカで、広いベッドだった。

 そのベッドが、二個あった。


 サヤカとトニーは同じベッドで。

 ゾニーは遠慮しかけたが俺はソファーで寝るソファー・ジャックだと言い。

 ゾニーにでかいベッドを押し付け、俺はソファーで寝る事になった。

 別に俺がソファーで寝る必要はないが。

 まぁ、ゾニーは案内役として色々考えているのだろうから。

 少しくらい、フカフカなベッドで寝かせることにした。


「………」


 ふと天井を見る。

 王都、何度も来てはいるが。なぜか胸騒ぎがする。

 その原因は分からないけど、やはり、何かが大きく。変わる気がする。

 それが何かは分からないけど、そうだな。


「やっぱり、死神が怖いのか」



――――。



「え」

「兄さん。治ってよかったね!」


 ふと、目の前に飛び出してきたのはケイティだった。

 何が起きているのか理解できなかった。

 その場所はいつもの家で、いつもより優しい光がさしている場所だった。


「治った?」

「そうだよ。魔病、治った」

「じゃあ俺、生きれるのか?」


 あぁ、そうか。

 ケイティが見つけた治療法が、俺の魔病を治したのか。

 あは、あっはは。

 そっか。

 生きれるんだ。

 サヤカに、全部話せるんだ。






━━━━━━━━━━━━━━━━

   第七章 死神編 開幕。



   余命まで【残り2■7日】

━━━━━━━━━━━━━━━━