カチャッと、家の裏手にあるドアを開けてみた。
すると、ブワッと感じるホコリの匂いとともに。
「ここが……地下室?」
チカッと、天井についていた照明を付けてみると。
そこは木造の
そして、コンクリートの様なもので固められた壁や床を見て。
なんだか感じる閉鎖感にどこか、不安を感じてしまう。
「……ふむ、なるほどね」
ボクはそう納得すると、まず始めたのは。
「――【魔法】ブリーズ」
と唱え、ドアの外へホコリや蜘蛛の巣を飛ばした。
すると案外質素で目立った汚れがない地下室になった。
多分だけど、ここは元々物置なんだと思う。
物置だけど、そこまでスペースはないかな。
せいぜい、家具をしまうくらい。
そしてボクは考えた。
その考えた結果を、題して。
「第一回、ボクの部屋づくりの始まりだ!」
――――。
「いらっしゃい」
と、優しそうなおじさんが声を掛けてくれた。
「すみません。ここにふわふわしたカーペットなどはありますか?」
「あるよあるよ。ついてきな」
地下室に踏み入った次の日。
ボクはそこを訪ねた。
まずは冷たい地面を何とかしようと、ふわふわしたカーペットを買うことにした。
部屋のサイズなどは既に把握してるし、ご主人さまは好きにしなと言ってくれた。
って事で、好きにしようと思う。
「フワフワなら、ここらへんのカーペットはどうだい?ネコの形のカーペットもあるよ」
店員さんは優しく、ボクの見た目を見てそうおすすめしてくれた。
試しに許可をもらい触ってみる。
ふむふむ。
これは最高だ。
フワフワして猫型のカーペットなんて、マルが喜びそうだ。
「本当ですか!?お値段はどれほどでしょう?」
「6000Gだよ」
「買います!」
ご主人さまからいつも貰ってるお小遣い。
特に使うことが無かったから貯まる一方だったけど、こうゆう事に使うのが夢だったので今楽しい。
店を出ると、そこは少しだけ薄れてきた夏の視線が差し込んでおり。
ボクが片手に持っている円形の畳まれたカーペットは意外と大きかった。
よいしょ。
……重い。でも、まだ買いたい物はある。
だからボクは足を運ぼうとすると。
「よ、サヤカ」
「トニーじゃん、丁度良いところに居た」
どこからともなく、たまたま出会ったトニーに。
買ったばかりのカーペットを持つのを手伝ってもらい。
そして次の店へ足を踏み入れた。
そのままボクとトニーは数件周り。椅子と
それを二人で持ちながら家に帰ろうと歩いていた。
「いっぱい買ったね」
「重いぞこれ……」
「その机に魔石を飾るんだ!」
「聞いてねぇな」
今にもワクワクしている心を飛躍させ、どう家具を並べようかと頭で考えてみる。
それにしても、あぁ、荷物持ちをしてもらってるのも申し訳ないな。
ご主人さまは今修行で忙しいし。
他に頼める人と言えば……。
「いないなぁ」
「なに独り言を言ってんだよ」
「いや、手伝ってくれる優しい人を考えてた」
「まずまずこんな一気に買う必要無かったんじゃね?」
「いやまぁそうだけどさ……」
「買いたい気持ちが勝ったと?」
「……うん」
「お前さ」
「なによ」
「そうゆうとこだけ子供っぽいのな」
「なんだよそうゆうとこだけって!」
トニーたら……んたく。
まぁでも、こんなけ荷物を持ってもらってるんだから。
変に文句は言えないな……。
「あっ」
ふと、腕に持っていた荷物が軽くなった。
そして後ろから、ニョキッと現れたのは。
「これ手伝うよ。サヤカくん」
「え、えっと」
「カール・ジャックだ。持ち手が付いてる荷物もあるのだろ。それなら持てる」
後ろから現れたのは、ボクと同じ白い髪の毛を持っている。
ご主人さまのお兄さん。カール・ジャックさんだった。
突然の登場。それに初めて二人っきりで話すから少しだけ緊張するなぁ。
「でもカールさん。片腕がないのに……」
「いいんだよ。力が有り余ってるんだから。それを善行に使いたい」
「そ、そうなんですね」
残った左手を伸ばしてくれたから、ボクは比較的軽い荷物をお願いした。
少しだけ申し訳ないな。
でも、本人が言うなら……いいのかな。
ご主人さまに怒られそうだけど。
「君の名前は?」
「と、トニー・レイモン」
「立派な名前だ。……レイモンと言えば、ヨアンの子供か」
「え。父さんを知ってるんですか?」
「昔ね。仕事仲間だったんだ」
一見、優しそうに聞いてくれる。
雰囲気で言えば、ある程度心を許せるお兄さんの様だった。
だけど、この人も。
あの戦いで、色々失った一人なんだ。
「カールさんって。団長を辞めちゃったんですよね」
「そうだよ」
「どうしてなんですか?」
「全く同じ質問を、君のご主人さまに聞かれたよ」
「あ、嫌だったら答えなくってもいいですよ!」
もし良くないことを聞いたのならと思ってそう言ってみた。
だけど、別に気にしてなさそうな爽やかな笑顔で。
「歳だね。ケニーより年上だから」
「そうだったんですね。失礼かもしれませんが、年齢はどのくらいなんですか?」
「46歳だよ。ケニーが42歳だから。4個だけ上だよ」
「そうなんですね……見た目は若く見えるのに」
「よく言われるよ。父さんに、子供の頃は女の子みたいだったと言われたことがあるくらい」
「それはボクと同じですね!!」
そう言うと、少しだけ考えるようにカールさんは空を仰いだ。
そして直ぐに、笑顔になって。
「そうかも知れないね。もしかしたら、君も立派な人間になれると思うよ」
「あ、ありがとうございます」
ほ、褒められたのだろうか。
多分……褒めてくれたんだろう。
その言葉を、胸にしまっておこう。
「あ」
「ん?どうしたサヤカ」
ボクの言葉に、トニーがそう聞いてきた。
だけどボクはトニーではなく、カールさんに向かって。
「マルのエサを買いに行っても大丈夫ですか?」
「あ」という言葉に、トニーはなんだか懐かしそうにしていた。
そうだな。ご主人さまに紹介したときのことを思い出す。
あの時はまだ何も出来なかったからなぁ。
でも今は魔法も使えるようになって、戦えるようになった。
変わったんだ。
「確かマルって……」
「うちで飼ってるネコです」
「あぁ、ケニーが言ってたネコか。いいよ、付き合うさ」
「わがまま言ってすいません」
「いいんだよ。君たちとも交流して置かなきゃ、数年後にケニーの悪夢を見ることになるから」
最後にカールさんが言った言葉の意味は分からなかったけど。
多分だけど、ご主人さまとの話のことだろう。
別にボクが気にする必要はないか。
――――。
夕暮れの街を歩き。
そして店に到着した時。
「あ」
「ん?」
その「あ」は、驚きの「あ」だ。
エサ売り場にやってくると。そこにはなんだか見覚えがある人が居たからだ。
金髪美女であり。ご主人さまのお姉さんとはまた違った雰囲気をまとった人。
「ナタリーさん?」
「あれ、サヤカさんじゃないですか」
魔物進軍時、ご主人さまと一緒の部隊で戦ってくれたと言う魔法使い。
金髪美女のナタリーさんがそのお店に居たのだ。
実はだが、ご主人さまとカールさん、他の兄弟達がお墓参りに言った時。
たまたまカールさんの車椅子を押してきてくれたナタリーさんと話す時間があった。
だから、既に心を開いているのだ。
「何してるんですかナタリーさん」
「いあぁね。エミリーが飼ってるフクロウのエサをお願いされたから探してたんだ」
「確か、エミリーさんって」
「サヤカさんは会った事ないね。私のルームメイトで、相棒って感じの人だよ」
そう妖艶に笑う。
トニーはその美人さに見惚れているようだ。
全く、男ったら。
ボクもだけどね。
「ナタリー、前は車椅子を押してくれてありがとう」
と、カールさんが話しかけた。
「いえいえ恐縮です。元団長とは言え、あなたに助けてもらった命でもありますから」
「……あぁ、そうだな」
どこかバツの悪そうに。
カールさんは後ろに下がった。
なんだろう?何かあったのかな。
「ネコのエサってどこらへんだろう」
「確かキャットフードはあそこの棚だと思うよ」
ふと発した疑問にナタリーは教えてくれた。
実は、マルのエサなどはご主人さまが買ってくれてたので、店に来るのが初めてなのだ。
ご主人さまは仕事の帰り道にこの店があるから寄ってくれていたらしい。
だから知らなかったんだけど。
この店、色んなエサがあるんだなぁ。
「蛇のエサもあるぜ」
「え……何食べさせるの?」
「冷凍ねずみ」
「ぐげぇ」
ほい、とトニーがそのケースに指をさす。
中を見ると。ぐげぇな光景が広がっていた。
トニーが意地悪そうに、ボクの反応を見て笑う。
魔法使いには、動物を相棒としてる人たちも居るんだよね。
ボクもいつか、そうゆうの欲しいな。
「………」
ま、マルは……なんか違うかな。
黒猫だけど。何ていうか。
あの子は……相棒と言うより。
一家の大黒柱並の態度で、ご主人さまとかの精神ケアをしてたりするから。
あの子は相棒ってより。家族だな。
「ここまでついてきてくれてありがとうございます」
家の前で、カールさんのそう告げる。
すると、どこか照れくさそうに。
「いいんだよ。俺も暇だったからね」
「今度何か、お礼とかしましょうか?」
「別に物は要らないけど。強いて言うなら、家に遊びに来てくれよ」
「わかりました!」
そんな会話をして、カールさんと別れた。
本当に運んでくれるのを手伝ってくれてありがたい。
初めて入る店も、なんだか良かった。
「トニーもありがとうね」
「おう。親友だからな」
そう言ってトニーも家に帰った。
既に辺りは暗かった。
だから足早に荷物を地下室に運び。
ボクは家のドアを開けた。
「ただいまです」
「よしよし……あっ」
……扉を開けると。
ご主人さまがマルの背中をナデナデしていた。
正直マルが羨ましいよ。
でもそれより。
「どうしてご主人さまは、浮気現場を彼女に見られた様な顔を?」
「サヤカさん!どうしてそんな言葉をご存知で!?」
そこには、いつもどおりの。
二人の姿があった。
ボクは多分、満足してたのか分からないけど。
その日は、よく眠れたと思う。
――――。
『――私は、お前の事を許さないからな。アーロン』
その懐かしい声を思い出し。ボクは日光を顔面にくらいながら。
勢いよく、ベッドから体を起こした。
余命まで【229日】