第32話 クラン合同イベント

 さて、今回はシェリルのクランがイベントを発足してくれることになった。

 彼女を頷かせるのは骨が折れたが、それでも旨みがあると思っていただけたようだ。

 ちなみにこのイベントはクラン合同のもので、他にも身内や知り合いに声をかけて大規模になっている。


 そんな中に混ざるCランククランはきっとウチぐらいじゃないかな?

 上位人はSSランクらしいし、オクト君のところでさえAランクだと聞く。

 まぁ別に張り合うわけでもないし、端っこのところでちょこんと空気のように立ってれば良いかな。

 出来た娘達を持てて親としては感無量だよ。

 でも何故かオクト君やシェリルは私を矢面に立たせようとするんだ。

 隣には同じようにどざえもんさんが居る。

 どうもシェリルは私達を解説者として置いて、どのようにシークレットクエストを発生させるか、そのコツのようなものを大勢のプレイヤーが見ている前で発表しろと言いたいようだ。

 別に隠すもんじゃないから普通に話すよ。

 今日は司会者じゃなくてゲストだしね。

 それを知ったとて責任を取らなくて良いのだから楽だ。

 どざえもんさんも私の次とあって緊張せず発表していた。


 会場からは基本的に理解不能という雰囲気が漂う。

 まぁ秘境探検とか山登りしかしてないからね、私達は。

 普段戦闘しかしてない人にそれを分かれというのも無理からぬ話だろう。

 それからも空の開拓状況や、報酬。

 そして発掘した素材の情報を開示してお開きとなった。


 素材の買い付けはオークション形式。

 希少素材は使い道が未知数でもそれなりに高価な値段がつけられた。オクト君もそのうち扱えるようにしたいと言っているが、まだまだかかることだろう。


 細々と参加していたうちのクランには人だかりができていた。

 素材を買いつけた業者がインゴットにして貰おうと狙っているのかもしれない。オリハルコンぐらいは片手間でやるかもしれないけど、龍鋼や天鋼辺りはまだまだできないと思うよ?

 多分それ目当ての人がすごすごと帰っていく。

 高い買い物だけどクーリングオフは受け付けていないらしいし、職人が育つまで待っててほしいな。


「父さん」

「やぁシェリル。盛況なようで良かったね」

「そうね。素材がいいもの。それに父さんの暴露話でお茶も濁せたし、呼んでよかったわ」


 えー酷い。言えっていったのはそっちじゃないの。

 でも私の冒険譚は尾鰭がついて回っていたからね。それを払拭するのにちょうど良い機会だったと思う。


「ふふ。少しは振り回される人の気分はどう?」


 シェリルはサングラスを外して目を細めた。

 相変わらずキチッとした子だけど、たまに悪戯っ子のような素振りを見せる。


「降参するよ。私が悪かった」


 両手を挙げて降参のポーズを取ると、少しだけ憂いが晴れたのかシェリルはサングラスをかけ直して遠くを見た。


「父さん、変わった?」


 突拍子もない呼びかけ。


「どうだろうなぁ。がむしゃらに生きてきた通勤時代と比べたら確かに変わった気がするよ。それもこれもAWOに出会わせてくれた美咲のお陰だ」

「あら、そこは母さんが出てくるところじゃないの?」

「そういえば首謀者は母さんだったか。私はいつまでもあの人に頭が上がらないからね」

「あまり母さんを締め付け過ぎないようにしてよ? 父さんは昔からこうと決めたら譲らないもの」

「母さんは強い人だよ。いや、強くなった。シェリルはうちのクランにいるランダさんを知っているかな?」

「確か近所に越してきた大会社の奥様だったわよね?」

「うん、あの人と一緒に第二の人生を歩んでからすっかり明るくなってね。私なんてもうお払い箱さ」

「その割にはクランに誘ってる……どうして?」

「色々あるんだよ。主に私が寂しかったと言うのもあるがね。せっかくの老後だ。遠く離れ離れになってしまった家族と、ここでこうして一緒に集まって何かしたい。クラン発足の行動理念はそんなところかな?」

「そうなのね。母さん私には何も言ってくれないから」

「そうか。シェリルの方から相談すれば話してくれると思うよ」

「そうかしら?」

「そうだよ。親にとっては何年経とうと子供は子供のままだからね。だから私にできることがあるならもっと頼ってきなさい」

「もう十分頼ってるわ。それに──頼りっぱなしって嫌いなの」


 シェリルは両手を上げて降参のポーズを取った。


「そうか。ならば私から言うことはない。どざえもんさんとの協力関係はどうだ?」

「すこぶる順調よ。でもあの人の代わりはなかなか出来ないものね。同じスキルビルドで組んでも、ああは動けないわ」

「だろうね。ドワーフかどうかを抜きにしてもあの人は凄い人だよ。空に上がる前、私は本気で山登りをして勝てたことがない。行動力でも私に引けを取らない人だ。駒として扱わず、教わるつもりで接すればシェリルも学ぶことが出来るだろう」

「そうなのね、自分に匹敵する人間をクランメンバーに入れる事で危機感を煽っているのかしら?」

「君は色々と頭の中で御託を並べすぎる。頭がいいのは分かるが、もう少し目線を下げて会話をした方がいい。どうもトップ層の人間は人間である事を捨てた上での強さを強みにしているように見える。これはゲームだ。もっと肩の力を抜いて楽しみなさい」

「嫌よ。今更生き方は変えられないわ」

「君も難儀な性格してるねぇ」

「きっと誰かさんに似たのね」


 誰かさんとは私の事だろう。彼女の瞳はそうであると物語っている。


「ご忠告痛みいる。それではシェリル、地下攻略を楽しんでくるといい」

「父さんも、最後まで諦めずにやり遂げてちょうだい。あ、先に地下を攻略しちゃっても目くじら立てないでよ?」

「その言葉、そっくりそのままお返しするよ」


 会話を打ち切り、私達は反発するようにすれ違った。

 彼女と会話するといっつもこうなる。

 本当はもっと話したいことがあるのに、どうも素直になれないんだ。


「父さん、また姉さんと拗れた?」

「違うわ、お姉ちゃん。あれは仲が良い証拠。ほら見て、お姉ちゃんちょっと気分良さそう」


 遠くで長女と父親の会話を見守っていた妹達が、評価を下す。

 どう聞いても喧嘩別れしたと思える内容だが、一番下の妹は、表情の変化が乏しい姉を指摘してそう答える。


「えー? 姉さん表情筋硬くて表情読めないわ。パープルはよくわかるわね」

「そりゃお父さんもお姉ちゃんもよく見てきたから。どっちもそっくりよ。特に素直に相手を褒めないところとか」

「そう聞くとそうね。姉さんてお父さんを女にしたみたいな人だわ」


 真ん中の姉の指摘に腹を抱えて笑う三女。

 言い得て妙だ。それでもなんだかんだ似ているようで馬が合うのだろう。会話はギクシャクしているが、信頼しあってる雰囲気を醸し出していた。


「じゃあ私も心配しない事にする。母さんも父さんの横にいて嬉しそうだし」

「それは間違いないわ。母さんも結構素直になれない人だから」