第26話 七の試練/虚実⑧

「相手はレムリアの民だそうだ。悪いがそれ以上のデータはこちらでは抜けなかった」

「レムリア人ですか。しかしなぜこんなところへ?」


 光線銃を回避しながら、探偵さんと考察を重ねる。

 どうやら事前に作った指輪のどれかが光線銃を無力化するバリアの役割をしている様だ。

 装備を確認したら、4つすべての装飾品の耐久値が均一で減っていた。

 やはり回数制か。

 あまり直撃は喰らわないほうがよさそうだ。


「よいしょお! ……って、これはひどい」


 べキン、と音がするほどに。

 ジキンさんが振り下ろしたバットはレムリア人の頭の形をなぞるようにひしゃげた。

 ただ硬いだけではこうはならない。

 これではまるで結果がこうなる様に改竄されてしまったようなものだ。

 武器がお釈迦になったジキンさんはその場で武器を不法投棄した。


 暫定レムリア人は特に何かされたのかさっぱりわからない様に光線銃を放ってきた。全く役に立たない人だ。しかし物理が無効だと判明したのはお見事か。

 人によっては攻撃したら武器がお釈迦になるとかトラウマものだろう。ジキンさんのは見た目装備なところありますし。

 多分そう。だからあんな簡単に捨てられるんですね。


「物理は効きませんね」

「手法を変えましょう。スズキ君!」

「|◉〻◉)えいやー!」


 探偵さんの指示のもと、スズキさんの銛、もといトライデントがジキンさんのバットと同じ結果を送った。


「|◎〻◎)僕の銛がー! |◉〻◉)まぁ、予備はたくさんあるんですけどね!」


 スズキさんのそれも見た目武器だったのか、ジキンさんと同じ様にポイっとその辺に投げ捨てていた。そしてエラの内側からニュルンと新たな銛が現れる。

 三叉に分かれたそれを手にしたスズキさんは嬉しそうに素振りをしていた。

 それがあるかないかでテンションが変わるのだろうか?

 ちょっとよくわかんないな。


 光線銃の勢いは衰えず、のけぞる様にブリッジして、スズキさんがすれすれで回避する。

 まるで映画の主人公の様だと探偵さんは笑うが、本人はお腹のヒレが焼け焦げたと騒いでいた。特に痛みとかはないらしいが、見栄えが悪いと少しだけ気にしている様だ。今更見た目であれこれいう人はいないと思うけどね。


「しかし物理がこうも弾かれるなら……」

「魔法ですね?」


 わかっていますよ、とジキンさんは両手を上げて★水操作を発動させた。

 室内に水が行き渡ってもレムリア人は不動である。

 まるで水中内行動は得意であるとばかりに不動で、光線銃を問答無用で放ってくる。

 しかし光線銃の方は違う様で、今まで狙われたらバリアで弾くしかなかった命中率が、屈折効果で逸れる様になっていた。

 ダメ元で狙った水没行為だったが、思いの外こちらに都合のいい展開になった様だ。


 探偵さんはジキンさんの水の中で氷をいくつか生み出し、屈折を利用し光線銃を反射させて直接レムリア人に攻撃を当てられないか試しているようだ。

 効果は出ている様に感じないが、それでも試してみる価値はあると思ったのだろう。

 次々とレンズの様に削った氷を生み出して設置していた。

 スズキさんは囮役を買って出て、探偵さんの打ち込んで欲しい場所に引き付けている様だった。


 妻やランダさんも違う属性の魔法をレムリア人に放っているが、糠に釘。何ら手応えは感じず焦りが浮かんでいた。

 ダメ元でマヨイ鉱由来のアイテムを使うも効果がない。

 打つ手なしか?


 そこで私は考えを改めることにした。

 何故このレムリア人は怒っているのか?

 理由をあげれば単純にこちらがアポイントメントをちらずに侵入した侵入者であるからだ。

 古代式のアポイントメントなんて知らないので非はこちらにあるとは言え、こちらも問答無用で攻撃はされてると言う意味では被害者だ。


 しかし別の思惑で動いたと考えれば?

 何だったらその可能性が一番高いと光線銃を回避しながら答えを導いていく。


 その可能性とは、このレムリア人自体がフェイクであるという事。

 この場合のフェイクは、意識をレムリア人に向けて、他の何かを隠すと言う意味での言葉である。

 物理攻撃と魔法を無効化する相手に、私達はどんどんと手札を消耗させられている。

 ジキンさんやスズキさんは得物をダメにされたのだ。

 余計にあきらめがつかない。どうしても倒そうと思考が働くはずだ。

 しかしこれが倒せないタイプと考えたらどうだろうか?

 何だったら部屋のギミックを解明するのを邪魔するパターンだって大いにあり得る。だから私は自分の役割を果たすべく動き出した。


「少し彼の相手を任せます」

「ちょっと、勝手に何をするつもりですか?」


 ジキンさんにだけ伝え、水没した天井を背に眼前の部屋の床に対してスクリーンショット。

 するとレムリア人の座っていた椅子の真後ろに光が密集する様に妖精の影が現れる。


「見つけた! 椅子の後ろ、ナビゲートフェアリーの反応あり!」

「流石です。ではスズキ君、引き続き囮役頑張ろうか」

「|◉〻◉)ほらほら、鬼さんこちらー」


 探偵さんが私の思惑に気が付いた。

 声かけでスズキさんが勢いを増して煽りながらレムリア人の意識を近づけた。

 その隙に私はレムリア人の椅子の真後ろへ。


 そんな時だ。今までスズキさんに向けられていたヘイトが突如私に向けられた。しかし、私は★光源操作で出力を最大限まで上げ、光線銃と同等の光を生み出して対消滅を狙う。


 それがうまくいったのだろう、無傷で光線銃を無効化することに成功した。

 指輪のバリアも有り難いが、今はまだ温存しておきたい。

 ただこの偶然が私に幸運を齎す。

 何と光線銃を無効化するだけに至らず、レムリア人の視界を焼いたようだった。

 もしかしなくても熱源探知なのだろうか?

 瞳らしい場所は厚い皮膜でおおわれていた。


 私を探すように光線銃をふらつかせながら、そしてわざと音を立てたスズキさんに狙いを定めて光線銃を放っている。

 あとは先ほどまでと同じ様にスズキさんがヘイトを取り、探偵さんが屈折を利用して光線銃をレムリア人に当て続けている。


 私はその隙に椅子の背後に描かれた古代言語を読み取る。

 それはまるで何かの密命書の様な言葉が記される。

 これをレムリア人は守っていた?


[盟友よ、我らは帰ってきた]


 これは、どう言う意味だ?

 レムリア人はこの部屋を守っていた。

 しかしアトランティス大陸に住むムー人とは仲違いしていたはずだ。


 いや、違うな。どうして私はアトランティス大陸にアトランティス人が住んでいない過程で話を進めていたのだろうか?


 大陸があるならそこに住む人種はアトランティスの民であって然るべきだ。

 だが当たり前の様に古代ムー人がアトランティスを支配していたと誰かの妄想を真に受けてしまっている。何かのコミックの影響だろうか?

 少年探偵アキカゼにそんな敵出てこなかったし。

 じゃなくて、今はそんな仮説はどうだっていい。


 この言葉、文章にはまだ続きがある筈だ。

 私は逆にその場で倒れ込む様にして天井にスクリーンショットを向ける。ちょうど位置からすると真上に古代文字が浮かび上がる。


[約束を果たす時が来た。共通の敵、ムー]


 ああ、そうか。

 何となくだがわかってしまう。

 古代ムー人によって二つの大陸は滅ぼされたのだ。

 これはアトランティス人が内密にレムリア人と協力体制をとっていると受け取れる。

 だがムーを倒した後のことまで記されていない。まだ情報が隠されている?


 わからないことばかりだ。

 ★光源操作でレムリア人の熱源探知をごまかす様に大量のフラッシュを焚きながら移動する。

 光線銃を向けられても弾き返せるのでスズキさん達も咎めたりはしない様だ。

 古代文字を引き抜いた情報は逐一パーティーメンバー全員と共有している。


 私は今度は壁に向かってスクリーンショットを写す。

 入り口から向かって正面はなく、右、左、と探して入り口……丁度レムリア人の座っていた真正面に古代言語の反応があった。

 そこにあったのは暗号を示すものではなく、指輪の使い方だった。


 [銀の指輪はレムリアの民の敵意を下げる]

 [金の指輪はレムリアの民の言語を解読する]

 [白金の指輪はレムリアの民の好感度を上げる]

 [魔銀の指輪はレムリアの民の内部ステータスを見れる]


 [しかし4つ同時に全部装備してはいけない]

 [レムリアの民は武力を嫌う]

 [同時に装備をする事で極光と恐慌状態を無効化するバリアとなる]

 [レムリアの民はそれすらも許さないだろう]

 [レムリアの民を怒らせるな]

 [レムリアの民はアトランティスの民の協力者だ]

 [怒らせず、会話をし、好意的に導け]


 なるほど、怒っている理由はこれか。

 酷いトラップを仕掛けてくれるものだ。

 私はこの情報を共有して、再度部屋に入り直すことにした。

 あとはストックをいくつか用意しておいたほうがいいだろうとランダさんの指示に従うことにした。


 今回の突然の襲撃で耐久値を減らしてしまったのは、手痛い失敗だと、彼女はそう語った。