俺がこの『恨み感』の世界に来て九年が経ったころ、ようやく軽く走ることができるまで回復してきた。
この数年のリハビリは
とにかく、時間とともに気持ちが
俺たちを襲った相手は、ユキナと敵対するレイラの
彼女を倒さなければ未来が変わらないというのであれば
こういった全ての心境を踏まえてユキナが言う
◇ ◇ ◇
この時代の俺とヒカリは高校一年生、先輩が二年生で、雅彦は中学三年生になっている。このまま未来が変わらなければ雅彦が同じ高校に入学してくるはずだ。
俺たちは大きく未来を変えてしまうのを避けるために、俺がいた時間軸での出来事をなるべく再現するように心がけた。
元の時間軸では雅彦の同級生としてユキナがいたから、その未来を変えないためにもユキナが同じ高校へ入学できるよう手続きを進めた。
そして、大きく未来を変え始めるのは四人が出会った水族館以降にすることとした。
正確には既に未来が変わってしまっている可能性を
あの出会いの場が無ければ全ては始まらないからな。
「高校か……懐かしいわね……。もう何百年前のことかしら……」
ユキナが用意してくれたアパートの一室で俺とユキナは作戦会議と言う名の雑談をしていた。
俺はこの部屋を拠点としてリハビリ病院へ通院し、ユキナはこの部屋から定期的にどこかの並行世界へ移動していた。
外では桜の花びらが舞い散り、一足早い春の訪れを感じる十年目の三月。
十一月まであと八ヶ月しか時間は残されていない。
「確かユキナは元々ドイツ人と日本人のハーフで、日本の学校に通っていたんだったんだっけ?」
物の少ないアパートの室内で、壁を背にして座る俺は窓から外を眺めるユキナに向かって声をかけた。
きっと、出会った頃の俺だったらこんなことは怖くて聞けなかっただろう。
「えぇ……。見た目は殆ど日本人なのにユキナ=ブレメンテって名前は目立って嫌だったわね……」
「ドイツ人の父親は生まれたときから
「書類上の
「あぁ……。なるほどな……」
きっとユキナは母親似なんだろう。
そうでなければ、何百年という時間をレイラフォードを殺すことだけに費やすことなんて出来やしない。それくらいしつこい女だ、こいつは。
「私は元々目立ちたくないタイプなのよ……。今思えば学校生活するだけなら教師に相談して母親の
「なるほどな、ところで母の旧姓は何だったんだ?」
「
「……だけど、少なくとも『ある美漢』の世界でのお前は篠崎を名乗っていたんだ、何か理由があったのか気まぐれかはわからないが、少なくとも篠崎を名乗らないと未来が変わってしまうんじゃないか? いや、俺が
ユキナは一瞬
「そうね、そろそろ小さく未来を変え始めなきゃいけない段階に来ているから悪くない提案ね……。今回はあなたに乗せられてあげるわ……。それじゃあ、私も名前を変えたんだから、あなたも加藤春昭という名前を変えたらどうかしら……? この世界には本物の加藤春昭がいるんだし……」
「確かに、ここにいる加藤春昭はこの『恨み感』の世界では偽物だもんな。うーん、そうだな……」
新しい名前を考えているつもりが、何故かヒカリの顔が頭に浮かんできた。
今の俺からしたら十年前の、この時間軸の俺からしたらまさに今頃のヒカリの姿だ。
「
「ふふっ、悪くないじゃない……。それじゃあ、改めてよろしく頼むわよ、シキ……」