遂に放たれる火属性最大の創星魔法――極大爆発力・ペテルギウス。
ガーラン卿の屋敷で放たれた魔法は結界に覆われていたため敷地内のみ消し炭となっていた。しかし、この魔法を街で使ったのなら、一瞬で王都は破壊されてしまう。罪もない大多数の命が奪われる悲劇――それだけは審判者として阻止する必要があった。此処は、予め街への被害を食い止めるために用意した
眼前の悪魔は私へ向け、結界に遮られる事なく
「……何故だ。何故爆発しない!」
ペテルギウスは
「貴方の魔法は確かに発動したわよ? 私の
「馬鹿な! 審判の魔女! お前の能力くらい知っている。だが、極大爆発力を一度に打ち消す程の力、お前には無い筈だ」
ええ、その通り。この世界に来て一年。私の力はまだ発展途上。だからこそ私は私の能力を充分理解しているつもり。
「ええそうね。貴方がもしも今、貴方の全力を持って極大爆発力を放てたのなら、私は消し飛んでいたのかもしれないわね」
「そうか、じゃあ死ね! 創星魔法、極大爆発力・ペテルギウス!」
再び放たれんとする極大爆発力。だが彼の両手から放たれた魔力は周囲へ爆散する事なく、小さな爆発が起きる前に漆黒の鎌で打ち払う。
「魔法の原理は知ってるかしら? 大気中の
「それがどうした?」
怪訝な表情のジュークへ私は続ける。
「極大爆発力程の威力を持った魔法なら、それだけ星屑が必要よ。でももし、大気中の星屑が足りなければ、魔法は発動しない」
「貴様……まさか!?」
ここまで告げてジュークは気づいたようだ。
「そう、この周辺に散らばる大半の星屑は私が
「打ち消した……んじゃないのか?」
予想と違った答えに驚いた表情となる上級魔族。
「メイの力は解析した事象を打ち消すだけではないという事さ」
私の横にいつの間にか立つ守護者が代わりに応える。そして、私は上級悪魔へ言葉を紡ぐ。
「創星の加護の下、審判者は彼の者へ継ぐ。汝の罪は正義か悪か?」
それまで陽光が照りつけていた平原。蒼穹は一瞬にして
「これが……終焉の天秤か」
命を刈り取る天秤に上級魔族は心を奪われていた。上級魔族にとって命を刈り取るその
「何故だ! 何故、お前は人間の味方をする! それだけの力を持っているのなら、人間を喰らい、蹂躙すればいいだろう?」
「残念だけど、私はそんな趣味趣向持ち合わせていないわ」
十本の爪を私へ向け放つが、漆黒の鎌を一振りした瞬間、黒爪は指先と共に剥がれ落ちる。指先を失った掌より、黒墨のような体液が飛散し、上級魔族は奇声をあげる。
「キェエエエエ! 貴様、赦さん、赦さんぞぉおおお!」
残された
「生きとし生ける命を軽んじた汝の罪は重い。裁きを受けなさい。創星魔法、極大漆黒力・ブラックシリウス!」
刹那、漆黒の闇がジュークを押し潰す。質量を持った強大な魔力を圧縮した〝闇〟は、闇に耐性がある上級魔族さえも喰らい、呑み込んでいく。呪詛のような奔流に呑まれた上級魔族は両腕を捥がれ、体液を垂れ流し、
「こ……こんなところで終わってたまるかぁあああ!」
「いいえ、貴方はもう終わり。永遠に終わる事のない苦痛を味わいながら、漆黒に呑まれなさい」
白銀の天秤が煌めき、月光の下、私は漆黒の鎌を振り下ろす。
終焉の天秤は静かに傾く――――
断末魔をあげる上級魔族の魂を死神が喰らう。
死神に喰らい尽くされた上級魔族の魂は、
「終わったなメイ。極大魔法を使うとは、姫も成長したものだな」
鎌を握る私の手を握り、キスをしようとする死神へそのまま鎌を振り下ろす。私の背後に廻り込んだ死神は不敵に嗤う。
「さっき事前に取り込んでおいた
極大魔法は練り上げる星屑も多いため、それだけ技術と発動までの時間を要するのだ。一度に消費する魔力も大きい。それを二度も放とうとしたジュークは相当の手練れだったと言える。
「此処へ奴を追い込んで居なければ、私が負けていたかもしれないわね」
「それはない。終始我が視ていたからな」
私が戦闘を振り返り、蒼穹を見上げていると、視界の隅に一瞬黒い影が
「探したぞメイ! 大丈夫か!? 無事か!?」
「あなたに呼び捨てされる筋合いはないわ、ハルキ・アーレス」
鋭い視線を赤髪の青年へと向ける私。どうやら此処へ転移した私を探して追いかけて来たらしい。
「その様子だと、終わったみたいね、トルマリン」
「嗚呼。そっちも片付いたようだなガーネット」
互いの名を呼ぶ守護者。そう、どうやら街へ出現したトロールは、無事倒したようね。
「マジかよ、諸悪の根源を一人でやっつけちまったって言うのか!? 凄いな、メイ」
「待って、近寄らないで!」
近づこうとする青年を静止する。
「いや、待ってくれ。君の事が心配だったのもあるが、一言お礼が言いたかっただけだ。聞いたよ、あの副隊長を寄越したのはメイだったんだろ? あいつが居なきゃあの場はヤバかったかもしれない。ありがとう、メイ」
「言いたいのはそれだけ? じゃあ私の前から消えてくれる?」
(私の前へ現れないでと言った筈よ?)
「ちょっと待って下さい! ハルキ様は貴女の昔馴染みなんでしょう? どうしてそんなに冷たくするんですか!」
「何? 部外者が一人居るようね。こっちの世界で創った恋人か誰かかしら?」
眼鏡をかけた黒髪の少女へ視線を向けると、一瞬怯えた表情で後退るが、すぐに私を睨み返す。
「ハルキ様は貴女に逢いに来たんですよ! 少しは歩み寄ってもいいじゃないですか!」
「何も知らない部外者が口出ししないでくれる?」
刹那私は魔族が持つ
「メイ。彼女は俺の大事な仲間だ。これ以上威圧する事は止めてくれ」
「分かったわ。でも先刻、忠告した筈よ? 二度と私の前に現れないで、と。次もし私の前へ現れたのなら、それは即ち審判の刻だって」
私は漆黒の鎌を振り翳し、彼を冷たく見据える。そこへ動く影。刺繍が施された民族衣装のようなローブを纏った女性。トルマリンからの事前情報によると、彼女が牡羊座の守護者らしい。
「メイ・ペリドッド。貴女がもし、私が加護を与えた彼を傷つけると言うのなら、私は貴女を止めなければならない」
「待て、ガーネット。メイを止める事は我が赦さん」
青年姿のトルマリンが牡羊座の守護者である女性――ガーネットと対峙する。
「いいよメイ。言葉で伝わらないなら、力と力で会話するのみだ」
「今の私は審判の魔女よ? あなたの罪、私が裁いてあげる」
私の銀髪と彼の赤髪が交錯し、漆黒の鎌と