「いろいろ参考になったね」
私は美津子のほうを見てそう言った。美津子もそうだというように頷いた。
「ねえ、私たちのお店は明日で1周年だけど、今後のことはしっかり考えていかなければいけないね。2人だけで話していてもこんなに充実し、しかもリアルな感じにはならなかったでしょうね。もうすぐ康典も帰ってくるでしょうし、今夜は3人で今後のことも話してみようか」
美津子からの提案だった。
私は康典がそういう話に乗ってくるかは分からなかったが、家族なのだから、今後のことを話すのは大切だと理解している。
「そうだね、そうしよう」
私はすぐに賛意を示した。
それを聞いて美津子は立ち上がり、私に言った。
「分かった。今日はおいしい料理を作るわ。あなたも手伝って」
「いいよ、ではまず買い物だね。これから一緒に行こうか」
美津子は嬉しそうな顔で言った。
「康典、何時に戻るって言っていた?」
「確か6時過ぎくらい、ということだったわ」
その言葉を聞き、壁の時計を見てみると4時近かった。
手分けして料理を作るとなると効率は良いのだが、基本的に飲食店の厨房ではないので、1人用になっている。だから本当に分担して作らなければならない。
でも、昼食の時もそうだが、前職の経験が役立つ場面でもあるので、こういう時は阿吽の呼吸で対応できる。
何を作るかを考えなくてはならないが、それは買い物に行きながら、あるいはお店で食材を見ながら、ということにしようとなり、とりあえず料理の材料を買いに家を出た。
私たちは近くのスーパーに行った。歩いて10分くらいのところにある。道すがら、私たちは今晩のメニューについて話していた。
「今日はみんなが好きなものを中心に作りましょう。それで食事が楽しくなれば、話も弾むでしょう。1周年のお祝いもあるわけだし、楽しい食事にしましょう」
美津子が私のほうを見ながら言った。こういう時の美津子の笑顔はとても良い。目が輝いているし、笑顔には何の邪心もない。今日は楽しい夕食になりそうだ、と私は思った。
そうこうしている内にスーパーに着いた。
途中の話の中で決めたメニューだが、康典は唐揚げが好きだ。小さい頃からこのメニューの時はとてもおいしそうに食べる。特に美津子が作る唐揚げが好きで、どこかの店で買ってきたものにはそうでもない。特別変わった作り方をしているわけでもないのだが、心がこもっている感じがしているのかもしれない。
私は豚の角煮が好きなので、今夜のメニューとしてオーダーした。
康典が好きな唐揚げ同様、みんなで食べられるメニューであり、家族の好物の一つだ。唐揚げも康典だけでなく、私も美津子も好きなので、これで家族が好きなものが揃った。
そこで美津子のリクエストだが、主菜が私と康典の好きなものになり、いずれも肉料理になったことで、サラダということになった。
主菜が肉ばかりでは、という美津子の意見もあり、それに刺身も加えた。この辺りが家族の栄養のことを考える主婦らしいところだが、サラダも単に野菜を切ったりするだけのものではなく、作るのに手間がかかるポテトサラダも加えた。もちろん、他の野菜も添えるので、そこにポテトサラダも並ぶ、という感じだ。
スーパーに着いた時、メニューについては決まっていたので、私たちは各々分担して食材の買い出しを行なった。
こういう時、材料の目利きや量的な加減は前職の経験が活かされる。それぞれ3人分プラスアルファを意識して買い揃えた後、合流してレジに向かった。
会計を済ませ、時計を見ると5時ちょっと前だった。家で時間を確認して約1時間経っている。
「もう5時近いね。すぐ帰って準備しないと康典が帰ってくるのですぐに出よう」
私は美津子にそう言い、スーパーを後にした。