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庭から何かの鳴き声が聞こえてくる。
敷地に迷い込んだ動物だろうか。
父に見つかったら大変だ。あの人は動物が嫌いだから、きっと殺してしまう。あの人に見つかる前に僕が先にみつけて森に逃がしてあげよう。
僕はその鳴き声のする方へ足を進めた。
―居た。
草陰に隠れるようにして居たのは、プラチナブロンドの髪を持った小さな女の子だった。動物の鳴き声だと思っていた声はどうやらこの子の泣き声だったらしい。
どうしてこんな所に女の子が…と思ったが今朝方母が知り合いの子供達を集めてピアノの発表会を開くと言っていた事を思い出した。きっとこの子もその発表会に呼ばれたのだろう。泣いているということは、ピアノの演奏が上手くいかなかったのかもしれない。
「大丈夫?」
思わず女の子に話し掛ける。女の子は弾かれたように顔を上げ、その瞳に僕を映した。
―エメラルドの瞳…。
涙に濡れた瞳に光が反射して、より一層輝いて見えた。その美しさに息をのむ。
「うっうっうっ…。」
僕の存在に気付くも女の子は泣き続ける。
どうしたものかと頭を捻る。関わってしまった以上、ほっとくことは出来ない。ふと、昔父が母に花束を贈ったことを思い出した。花束を受け取った母はとても嬉しそうな笑みを浮かべ、僕に「お花を貰って喜ばない女性なんて居ないわ。」と言った。
…もしかしたら泣き止むかもしれない。
「少し待ってて。」
僕は花を探すため、辺りを見渡した。
父が母に贈ったような立派な花は無かったが、小さな白い花を見つけることは出来た。それを摘みとり、女の子の前に差し出した。
「これ君にあげるから泣かないで。」
花の効果なのか、女の子は涙を止め白い花を受け取った。
「甘くていい匂いがする…。私、お花なんてはじめてもらったよ。ありがとう、凄くうれしい。」
そう言って女の子はにっこり笑った。
その笑顔を見て僕は、まるで花が咲くみたいに笑うのだな、と思った。