大観覧車が間もなく頂上に到達する。オレンジに輝く夕陽が遠くに沈んで行くのをゆっくり見ながら、今日は楽しかったね、と友梨さんが口を開いた。
「はい。また遊びたいですね」
「うん、次はどこに行こうか?」
「もう次の話し? 早くない?」
「早くない! 来週と再来週はダメなんだよね、三週間後の土曜なら空いてるんだけど、彩葉ちゃんは?」
「私も特に予定ないですよ」
「予定ないなんて寂しいですね」
「そこは歩が彩葉ちゃんをデートに誘って予定を埋めるべきでしょ!?」
「あ、いや、あーー、まあね。そうだね」
「もう、……彩葉ちゃんごめんね、こんな弟だけど見捨てないでね?」
「は、はい」
「それじゃあ三週間後の土曜日はどこに行こうか?」
植物園、水族館、動物園、と無難なデートスポットから湊さんが、水族館に行きたいな、と言った事ですぐに決まった。
オレンジに染まっていた空がゆっくりその色を変えて行く。淡い紫に染まった頃、私たちを乗せていたゴンドラは一番下に到着した。
遊園地を出て最寄り駅に到着し、路線の違う友梨さんと湊さんと別れる。
揺れる電車の中で松岡くんが車窓の外を見たまま、ありがとうございます、と言う。
「楽しかった、ね。そうだ、いっぱい写真撮ったんだよ、あとで送るから」
私はスマホでたくさんの写真を撮っていた。出来るだけ友梨さんと松岡くんが笑っている、そんな写真を。
「何か撮ってるな、とは思ったんですよね」
「へへへ、カメラマン月見里が二人の自然な表情を撮影させていただきました!」
「今見せてくださいよ」
「いいよ、ちょっと待ってね」
私はスマホを出して撮ったばかりの画像を表示させると松岡くんに見せた。
「ほんとだ、僕も笑ってますね」
「でしょ!」
「あれ、月見里さんが全然写ってないじゃないですか」
「そりゃそうだよ、カメラマンだもん」
「なんで……」
「なんで?」
疑問を疑問で返すと、松岡くんは頭をくしゃくしゃとかき混ぜた。
「何でもないです。でも今度は一緒に写ってくださいね。僕も撮りますから、これじゃまるで……」
その続きは声にならなくて分からなかったけど、もしかしてと思い当たる。
友梨さんと湊さんの恋路を邪魔しているように見えたのかもしれない。……良かれと思ってしたことだったけど、余計な事をしてしまったかもしれない。
「ごめんね、今度は四人で、……撮ろうね?」
「はい」
力なく頷く松岡くんからスマホを返してもらう。その時に触れた指からおばけ屋敷での出来事を思い出してしまった。
握り込んだ私の指を解く優しい松岡くんの手に再びドキリと胸が鳴る。その正体に気付きたくなくて、私はまた指をぎゅっと握り込んだ。