金曜、恒例の【みやびの日】
陽菜と一週間の疲れを乾杯に変えると、カクテルに口を付けた陽菜が、それで? と聞いて来る。
「ん? なにが?」
「とぼけないでいいから、川辺もあんたも何かおかしくない、今週?」
「げっ」
「げっ、て何なの? 言えないこと?」
陽菜に正直に打ち明けるか悩みつつも、川辺との事は話す事にする。
「川辺が私の事、……その、……」
「とうとう告白されたの?」
「えっ!? 知ってたの!?」
「うん」
「いつから?」
「えーー、入社してすぐくらい?」
「えっ……」
陽菜は何だそんな話しか、と言わんばかりにカクテルを飲み干して、高い声で雅くんを呼ぶ。
「雅さん、これ美味しかったです! 同じのまたもらっていいですか?」
「良かった〜、陽菜ちゃん好きだと思ったんだよね! ちょっと待っててね!」
「お願いしまーす」
雅くんの背中を追う陽菜が、はあ、と熱い溜め息をこぼす。
「雅さん、今日も格好いい……」
「陽菜のタイプってあんなの?」
「あんなの、って言わないでよ。格好いいでしょ!」
「まあ〜、……そうかもね」
「雅さんのタイプって、どんな女の子かな?」
「さあ? 知らないけど? 聞いてみる?」
「えっと、……今日はまだ駄目。心の準備が出来てからにして!」
「はいはい」
それから雅くんが、お待たせ、と言って陽菜にカクテルを出す。それを受け取る陽菜はいつもより少し可愛くて、乙女だなと感じた。
*
スマホが鳴っていると気付いたのはベッドの中。
カーテンの隙間から雨が降っているのが見える。どうりでぼんやり暗い訳だ。スマホ画面の右上に小さく
『10:03』と表示され、ど真ん中には見知らぬ番号がある。
「ん? 誰?」
通知ボタンをスライドさせて、はい、と出る。
『あ、彩葉ちゃ~ん! 友梨です。歩の姉の松岡友梨です』
「えっ、友梨さん?」
『おはよう、突然ごめんね、今大丈夫だった?』
「はい」
『歩から聞いたよ、彩葉ちゃんがまた遊びたいって言ってくれてるって』
「ああ、そうなんです。でも友梨さんたちが忙しくなければ……」
『うん、じゃあ来週の日曜日にする?』
「来週の日曜日?」
『あ、ダメだった? じゃあ……』
「いえ大丈夫です。予定ないので、来週の日曜空いてます!」
私がそう言うと、友梨さんは本当に嬉しそうなのが分かる声で、良かった、というと、今度はどこに行くかという場所決めに話が移る。
無難なデートコースを二人で羅列してくと、電話の向こうで友梨さんが、全部行きたいな~、と言い始める。
「じゃあ来週は遊園地にして、また四人の予定があう日に違う所もいきましょうよ?」
『そうだね! 日本にいる内に日本で行きたい所は全部行こうね! あっ、……そうなると、泊まり掛けで遠出もしたくなるよね~?』
「いいですね! 温泉とか?」
『温泉! 行きたい、行きたい。なんなら彩葉ちゃんと二人でもいい!』
「ははっ、友梨さん。そこは私より湊さんとじゃないんですか?」
『そうだよね、彩葉ちゃんだって歩と一緒じゃなきゃ楽しくないよね……』
それはないです、と友梨さんに向かって否定できない私は、「じゃあやっぱり四人で行かないとですね」と濁した。